42日目 魔女が現れた

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   ③  公園の隅にある森に足を踏み入れたヒカル。  陽無(ひなし)と呼ばれる通り、太陽の日差しが木々の葉っぱに(さえぎ)られた森の中は薄暗(うすぐら)くなっている。  その為かこの地帯の気温は数度低く、ひんやりとした冷たい空気が流れていた。  それ以外にも涼しく感じさせている“要素(ようそ)”があった。  陽無の森には昔から色んな(うわさ)伝説(でんせつ)が語られていた。  死体(したい)()められているとか。  落武者(おちむしゃ)のお化けが出るとか。  一度立ち入ったら出ることは出来なくなるとか。  などと子供を(こわ)がらせるものばかり。  それは大人たちが子供たちを森に立ち入らせないための“(うそ)”なのかもしれないが、小さな森となった今では怖がらせる効力(こうりょく)(うす)れさせていた。  それに今は真昼間(まっぴるま)。遠目には森の終わり――住宅街が見えている。  昔のほどの深い森ならいざ知らず、今なら迷うこともない。  とは言え、この場所独特の雰囲気と先の噂や伝説のこともあり、 「さっさと通りぬけよう」  と、足早で森を進んでいく。  ふと、これまでの夏休みの思い出を振り返った。  おそらく夏休みの半分は友達と遊んでばかり過ごしていた。  夏休みらしいイベントとして家族旅行(かぞくりょこう)に出かけたけど、一泊二日の弾丸(だんがん)トラベルで父の趣味(しゅみ)城趾(しろあと)神社(じんじゃ)仏閣(ぶっかく)巡りをしただけだった。  せっかくの夏休みなのだから海外旅行をするくらいの気概(きがい)があってもいいくらいなのだと不満が溢れる。  海外旅行なんてものはヒカルが生まれる前、いわゆる親の新婚旅行(しんこんりょこう)で“ヨーロッパ”に行ったぐらいだと聞いた。  親はヒカルを連れて、いつか一緒に行きたいと言ってはいるが、いまだに叶えられてはいない。  といってもヒカルは海外旅行(かいがいりょこう)に興味は無かった。  いや、旅行そのものに興味が無かった。  神社・仏閣巡りも、古い建物(たてもの)を眺めて、お(まい)りして、歴史(れきし)風光明媚(ふうこうめいび)を見て楽しむのはまだ早い。  旅行に行くぐらいなら、家でゴロゴロしてゲームをしていた方が楽しい。それかゲームセンターや遊園地(ゆうえんち)とかに行った方が数倍(すうばい)楽しかったに違いない。  旅行よりも八月中旬(はちがつちゅうじゅん)市外(しがい)のショッピングセンターにて、ヒカルが遊んでいる『モンスターZOOパニック』(通称、モズパ)というモンスターを集めて戦うゲームに出てくる隠しモンスターの配布(はいふ)イベントが開催(かいさい)されていた。  本当はそっちに行きたかったが、先の旅行で行けずじまい。  隠しモンスターはゲットできなかったのが夏休みの最大の心残りとなった。  なぜならば、そのモンスターが入手できれば、全モンスターのコンプリート(全種類獲得)できたからだ。  その後、なんとか手に入れようとしたが、スーパーレアなモンスターをゲット出来た友達が交換(こうかん)してくれる訳がない。  インターネットの(カキコミ)では、“裏技(うらわざ)”を使えば、出現(しゅつげん)させることが出来るらしかったが、それを行うとゲームデータだけではなく、ゲーム機自体が壊れて、二度とゲームが出来なくなってしまうというものだった。  流石(さすが)危険(きけん)挑戦(ちょうせん)はできなかった。  今にして思えば、ゲームをしていた時間を夏休みの宿題に(つい)やしていれば間違(まちが)いなく終わっていたことだろう。  しかし、子供(ヒカル)にとって宿題よりも遊ぶ方が優先事項(ゆうせんじこう)なのだ。  そもそも小学生にとって夏休みは短すぎるのだ。それに、まだまだ遊び足りなかった。約四十日間、毎日遊び尽くしていたとしても。だから(はかな)(のぞ)みを(つぶや)いた。 「時間とかが戻って、もう一度夏休みを過ごせないかな‥‥」
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