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③
公園の隅にある森に足を踏み入れたヒカル。
陽無と呼ばれる通り、太陽の日差しが木々の葉っぱに遮られた森の中は薄暗くなっている。
その為かこの地帯の気温は数度低く、ひんやりとした冷たい空気が流れていた。
それ以外にも涼しく感じさせている“要素”があった。
陽無の森には昔から色んな噂や伝説が語られていた。
死体が埋められているとか。
落武者のお化けが出るとか。
一度立ち入ったら出ることは出来なくなるとか。
などと子供を怖がらせるものばかり。
それは大人たちが子供たちを森に立ち入らせないための“嘘”なのかもしれないが、小さな森となった今では怖がらせる効力は薄れさせていた。
それに今は真昼間。遠目には森の終わり――住宅街が見えている。
昔のほどの深い森ならいざ知らず、今なら迷うこともない。
とは言え、この場所独特の雰囲気と先の噂や伝説のこともあり、
「さっさと通りぬけよう」
と、足早で森を進んでいく。
ふと、これまでの夏休みの思い出を振り返った。
おそらく夏休みの半分は友達と遊んでばかり過ごしていた。
夏休みらしいイベントとして家族旅行に出かけたけど、一泊二日の弾丸トラベルで父の趣味の城趾や神社・仏閣巡りをしただけだった。
せっかくの夏休みなのだから海外旅行をするくらいの気概があってもいいくらいなのだと不満が溢れる。
海外旅行なんてものはヒカルが生まれる前、いわゆる親の新婚旅行で“ヨーロッパ”に行ったぐらいだと聞いた。
親はヒカルを連れて、いつか一緒に行きたいと言ってはいるが、いまだに叶えられてはいない。
といってもヒカルは海外旅行に興味は無かった。
いや、旅行そのものに興味が無かった。
神社・仏閣巡りも、古い建物を眺めて、お参りして、歴史や風光明媚を見て楽しむのはまだ早い。
旅行に行くぐらいなら、家でゴロゴロしてゲームをしていた方が楽しい。それかゲームセンターや遊園地とかに行った方が数倍楽しかったに違いない。
旅行よりも八月中旬に市外のショッピングセンターにて、ヒカルが遊んでいる『モンスターZOOパニック』(通称、モズパ)というモンスターを集めて戦うゲームに出てくる隠しモンスターの配布イベントが開催されていた。
本当はそっちに行きたかったが、先の旅行で行けずじまい。
隠しモンスターはゲットできなかったのが夏休みの最大の心残りとなった。
なぜならば、そのモンスターが入手できれば、全モンスターのコンプリート(全種類獲得)できたからだ。
その後、なんとか手に入れようとしたが、スーパーレアなモンスターをゲット出来た友達が交換してくれる訳がない。
インターネットの噂では、“裏技”を使えば、出現させることが出来るらしかったが、それを行うとゲームデータだけではなく、ゲーム機自体が壊れて、二度とゲームが出来なくなってしまうというものだった。
流石に危険な挑戦はできなかった。
今にして思えば、ゲームをしていた時間を夏休みの宿題に費やしていれば間違いなく終わっていたことだろう。
しかし、子供にとって宿題よりも遊ぶ方が優先事項なのだ。
そもそも小学生にとって夏休みは短すぎるのだ。それに、まだまだ遊び足りなかった。約四十日間、毎日遊び尽くしていたとしても。だから儚い望みを呟いた。
「時間とかが戻って、もう一度夏休みを過ごせないかな‥‥」
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