42日目 魔女が現れた

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   ⑤  捜索(そうさく)を続けるヒカルと魔女。  ポルアを探すために辺りを見回しているが、ヒカルはチラチラと魔女を見ていた。  その熱い視線(しせん)に気付いている魔女は優しく問いかける。 「どうしたの。なにか()きたいことでもあったりする?」 「あ、あの‥‥。さっきのポルアは、どうやって出したの?」 「魔法よ」  簡潔(かんけつ)な答えだった。 「そ、そうだと思うけど。なんて言うのかな、ちゃんと説明(せつめい)して欲しいというか。ゲーム機からポルアが出てきたのを」  魔女は思わず「おっ!」と感嘆(かんたん)の声をあげた。 「疑問(ぎもん)に思ったことを純粋(じゅんすい)に知りたいということは良いことよ。そうね‥‥今のキミに説いても意味を理解するのは難しいと思うけど。簡単に説明(せつめい)すると、あのゲーム機からポルアのデータを解析(かいせき)して、(かく)となる元素(げんそ)独創創造(クリエイト)して、構成(こうせい)しただけよ」  ヒカルの頭の上に大きな『?』マークが浮かぶ。  それを察してか魔女は話しを続ける。 「たとえば、キミが普段(ふだん)飲んでいる“水”は、なんで出来ているか知っているかな?」 「え、水って‥‥蛇口をひねると出る、アレ?」 「そう、アレ」 「なんで出来ているかって‥‥雨じゃないの? 降った雨をダムとかに貯めて、浄水場で綺麗(きれい)にして、飲み水にしているんだよね」  その答えに魔女はニッコリと笑って返した。 「そうか。そこまでしか知らないか‥‥。そういえば、キミは何歳なの?」 「え、九歳ですけど‥‥」 「九歳か‥‥。それなら知らなくても(いた)(かた)ないわよね。まぁ、理解が出来ようが出来まいが、とりあえず説明はしてあげるわ。“水”はね“水素(すいそ)”と“酸素(さんそ)”の元素(げんそ)で構成されて出来ているの。もっと詳しく言えば、水素が二つに酸素が一つ必要だけどね。つまり、この世の形あるモノは何かしらの“元素”があり、それらが集まって形を成しているの」  ペラペラと語る内容にヒカルの頭の中は『?』マークが一杯となり、一部が耳からこぼれ落ちる。  チンプンカンプンとはまさにこういうことを言うのであろう。  だが、元素の話しは小学四年生のヒカルならば解らなくて当然だ。まだ習っていないのだから。 「と、まあ今は解らなくても大丈夫よ。知らないことはちゃんと聞いておきなさい。後々(あとあと)(むす)びつくこともあるからね。雑学は無駄(むだ)じゃないのよ」  思考回路がショート寸前になっていたヒカルの頭を優しく()でる。その魔女の手はヒンヤリとして冷たかった。 「さて、他に()きたい‥‥おっと、あれは」  魔女に釣られてヒカル見上げた――その先に木の枝の所でポルアは寝ているのか、耳の羽を休めていた。 「けっこう高い所にいるね。この虫取(むしと)(あみ)じゃ届かないよ」  魔女の手から生み出された虫取り(あみ)の長さはヒカルの身長と同じぐらい。  ポルアがいる場所まで五メートルはあるだろうか。あきらかに長さが足りない。 「大丈夫。こんなこともあろうかと。ねえ、長くなれ、と(ねん)じながら“ロンゲェムオ”と言ってみなさい」 「えっと‥‥」 「ロ、ン、ゲェ、ム、オ」 「ロ、ロンゲェ、ムオ」  たどたどしく復唱(ふくしょう)すると、虫取り網の()がグングンと天に向かって伸びていき、あっという間にポルアに届くほどの長さになった。  ヒカルは点になった目で虫取り(あみ)と魔女を交互(こうご)見返(みかえ)した。 「魔法の虫取り(あみ)だからね。このぐらい出来るわよ」 「そ、そうなんだ‥‥」 「さぁ、それでさっさと、とっ(つか)まえ‥‥」  ポルアは魔女の声で起こされたのか、目を覚ますと眼前(がんぜん)にある(あみ)(おどろき)き、バッと耳を広げると羽ばたかせて飛んでいってしまった。 「逃げちゃった」 「追いかけるわよ!」  ヒカルたちは先ほどみたく見失わないように飛び去っていくポルアを追いかけていく。  だが、相手は空を飛んでいる。全力で走っても追いつく気配(けはい)がない。そこでヒカルは試しにと、 「ロンゲェムオ!」  先ほど学んだ呪文を唱えてみると虫取り網の()がより長くなった。  そして飛び行くポルアに向けて、虫取り(あみ)を振り下ろした。 「たぁっーーー!」  しかし、ここは森の中。 ――ガサッ!  並び立つ木々の枝に長くなった(あみ)が引っかかってしまったのだ。 「あららら、何やってるのよ」  引っかかった(あみ)を取ろうとモタモタするヒカルを尻目(しりめ)に、ポルアは遠ざかっていく。 「このまま、ただ追いかけるのもツマラナイわね」  魔女は近くに生えている木の幹にそっと右手で()れ、呪文を(とな)え始める。 「ミーダオルドンジェセグ・ミーダ・マノ・ラボリ(我の命に従え。その枝を我の手とし動け)」  木の枝が(たこ)触手(しょくしゅ)ようにニュルニュルと動き出し、ポルアを追いかけていく。  ポルアは俊敏(しゅんびん)な動きで追い()う木々の枝を()けていくが、数ある枝の一つがポルアを(とら)えて叩き落した。 「まぁ、こんなもんね! さぁ、あのモンスターがノビている内に、さっさと捕まえなさい」 「う、うん!」  地に伏しているポルアの元に駆け寄ろうとしたが、長くした虫取り(あみ)がまた木々の枝などに引っかかり移動の(さまた)げになってしまう。 「あっ!」 「レヴェーノ(戻れ)と唱えれば、短くなるわよ」 「う、うん。レ、レヴェーノ!」  言われた通りに虫取り(あみ)()は短くなり、元の長さに戻った。  その間にポルアは(ふる)えながら起き上がり、ヒカルたちの方に敵意(てきい)がこもった(にら)みつけた。  ふとヒカルは野良犬(のらいぬ)(おそ)われた時の苦く嫌な思い出が(あざ)やかに()び起こされ、思わず(こし)が引けてしまった。  そしてポルアがより強く(にら)みをきかせると、 「うわわわわっっっ!」 ヒカルは見えないチカラで強く押され、後方(こうほう)へと突き飛ばされた。  しかし運良く後ろにいた魔女が、 「おっと!」  飛ばされたヒカルを受け止め、大事(だいじ)にならなかった。  続けざまにポルアは小さな口を開くと勢い良く青い(ほのお)を吹き出す。  全てを焼き()くすほどの熱がヒカルたちに襲いかかる。 「ルメツムゥーロ(光の壁)!」  すかさず魔女が右手を前へ差し出すと魔方陣(まほうじん)が浮かびあがり、それが(ひかり)の壁となり炎を(ふせ)いだ。  光の壁の先に、炎を吹き終わったポルアが魔女たちの様子を(うかが)っているのが見えた。 「なんなの、あの生き物? てっ、私が構成(こうせい)したけれどね」 「た、確か、ポルアはね。エスパー系のモンスターで。テレキネスや火炎放射(かえんほうしゃ)(かい)とかのスキルが使えるモンスターなんだよ」  ゲームサイトで知ったポルアの情報をスラスラと述べるヒカル。学校の勉強もこのぐらい覚えが良いといいのだが、それはさておき。  説明から先ほどヒカルが吹き飛ばされたのは、念動力(テレキネス)だと(さっ)する。 「う~ん、流石(さすが)は私。そこまで再現(さいげん)させるなんて。ところで、そのゲームでは、あのモンスターはどうするの?」 「戦って、弱らせてから捕まえるものだけど」 「だったら現実(ここ)でも、そうした方がイイわね!」  魔女はポルアに挑もうと覚悟を決めていると、 ――ゴゴゴゴ‥‥  地響きと共に地面が振動し始め、地面が割れて、数多(あまた)の土の(かたまり)が宙に浮かぶ。  それは土属性系のテレキネス‥‥“グランドショット”。  ポルアは土の塊を魔女たちに目がけて放り飛ばした。 「おっと! よっと! さっと!」  魔女は瞬時(しゅんじ)にヒカルを抱きかかえ、弾丸(だんがん)(ごと)く飛来してくる大小の土つぶてを(かろ)やかにかわしていく。 「今度はこっちのターンね。ファイロルグロブ(火の球)!」  魔女の右手に光が集まると、サッカーボールぐらいの火球(かきゅう)が手の平に現れた。  それをポルアに目がけて放ったが、火球が命中(めいちゅう)する直前(ちょくぜん)、ポルアは素早い動きで避けてしまった。  そのまま目に止まらないほどのスピードで、あちらこちらと動きまわる。 「おっおっおっ!?」  流石の魔女ですらも姿(すがた)捕捉(ほそく)できないようだ。 「シューティングスターだ! すごい! 実際、こんな感じなんだ!」  ゲームでの技が今目の前で繰り広げられていることにヒカルは興奮(こうふん)してしまう。  ポルアは動きを止め再び姿を現すと、小さな口を開く。  また火を吹くのかと構えたが、口の周りに光の粒子(りゅうし)が集まり、それがやがて大きな光の玉へと変わっていく。  ヒカルは(あわ)てて(さけ)んだ。 「あれは破壊光線(デストロイビーム)! 気を付けて! あれはスキルの中でも一、二の破壊力(はかいりょく)があるスキルだよ!」  ヒカルの警告(けいこく)に魔女は不敵(ふてき)な笑みを浮かべた。 「本当にスゴイわ、私って。そんなものも再現させるなんてね。だけど、ゲームのプログラミングの所為(せい)なのかしら、人間みたく同時に動くような動作(ぢうさ)はできないみたいね。攻撃(こうげき)する時は攻撃(こうげき)する。()ける時は()けるって感じで」  今までの状況を解析(かいせき)しつつ、魔女は手の平を広げてポルアに向けると、こちらも手の平に光の粒子が集まりだす。 「だからこそ攻撃の動作をするときが、こちらからの攻撃のチャンスでもある訳よね。さぁ、同じようなスキルだったら、どっちが強いかしらね?」  ポルアの口から光線が放出(ほうしゅう)されると同時に、 「ブリリーガラディオ(輝きあふれた閃光)!」  魔女の手の平からも同様の光線を(はな)った。  光線と光線がぶつかった瞬間、(まぶ)しい光が発せられ、ビリビリと空気が振動(しんどう)する。  魔女の光線の方が威力(いりょく)が強かったのだろう。ポルアの方へと弾き返した。  光線がポルアを命中すると大きな音のすぐに爆発(ばくはつ)が起こり、砂塵(さじん)が巻き上がる。  平和な日本で普通に暮らしていたら絶対に遭遇(そうぐう)することはない非日常な光景を、ヒカルはただ固まったまま黙って見守るしかできない。  やがて砂塵が晴れ、爆心地(ばくしんち)には()黒焦(くろこ)げになってしまったポルアが倒れていた。 「ほら、(つか)まえるチャンスよ!」  魔女の声で硬直(こうちょく)が解けるヒカル。 「う、うん。わかった!」  言われるがままポルアの元に()()ると、手にした虫取り(あみ)でポルアを()らえた。 『ポルアをゲットした!』  そんなゲットメッセージと共に、ヒカルの頭の中で爽快(そうかい)かつ軽快(けいかい)な音楽が(かな)でられたような気がした。  しかし、せっかく(つか)まえたのだが―― 「だけど、これ。どうしよう‥‥」 「あら。せっかく捕まえたのだから、ペットとかにすればいいじゃない?」  飼いたいのだが相手はモンスター。光線を出したり超能力を使ったりする生物を普通に飼える訳が無い。  しかたがないので、 「このポルアをゲームの中に戻せる?」 「キミがそれを望むならね」  少し名残り惜しくもヒカルは(うなず)いた。  魔女はゲーム機を渡して貰い、 「ナンフィグロガスタ・フィグロレヴェーノ(型どられた形から相応しい姿となれ)」  呪文を唱えると、(あみ)の中に入ったポルアは光の粒子となり、ゲーム機のディスプレイの中に()()まれていった。
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