42日目 魔女が現れた

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   ⑥ 「どうだった?」  森の出口へと向かう中、魔女は今日の感想(かんそう)(たず)ねた。  ヒカルはさっきの出来事を振り返る。  モンスター(ポルア)を出現(しゅつげん)させて、追いかけては闘って‥‥ゲームのような、夢のような体験だった。  それを可能にしたのが今、目の前にいる女性の“正体”のお(かげ)。 「すっごく楽しかったよ。お姉さんは本当に“魔法使(まほうつか)い”なんだね」 「魔法使いと言われるよりは“魔女”って言われた方が好きなんだけどね」  “魔女”と“魔法使い”。  違いはそんなにないのだが彼女にとって“魔女”の方が正しく重要のようだ。 「今日が夏休みで一番楽しかったよ」 「夏休み? あら、今日って‥‥」 「八月三十一日だね。夏休みも今日までなんだよね。お姉さんと早く会っていれば、こんな楽しい毎日を過ごせたのかな」 「ふふ、なるほどね。確かに私的にも今までにああいったことは体験なかったわね」 「あーあー、時間とか戻って、もう一度夏休みを過ごしたいな‥‥。そうすれば今度はちゃんと宿題とかもするのにな‥‥」  ヒカルの何気ない言葉に魔女は小さな声で返した。 「それは面白いかもね」  そうこうしている内に森の終わりが見えてくる。  アスファルトで舗装(ほそう)された道路が、真夏の日差しで熱されて揺らめいている。  木陰の森から出たら先ほどのポルアの炎の息に吹かれたように焼かれるだろう。  魔女は木陰(こかげ)の中で立ち止まり、ヒカルを見送る。 「ほら、もう迷いこむんじゃないのよ‥‥てっ、今回のは事故(じこ)みたいだけどね」  ヒカルが森から抜け出せなくなった原因は結界の所為であるようだ。  あの“一度立ち入ったら出ることは出来なくなる”という言い伝えの所以(ゆえん)は、この所為だったのではと。 「そうだ、お姉さん。明日もここに居るの?」 「ん~どうかな。どうして、そんなことを訊くの?」 「また一緒にこんな風に遊んでくれたら良いなと思って‥‥」 「そうね‥‥。そうだ、そういえば君の名前を聞いて無かったわね。なんて名前なの?」 「風真光(かざまヒカル)だよ」 「ヒカルね。ねぇ、ヒカル。さっきキミが言っていた“願い”が叶うとしたら、どうする?」 「願い? えっと‥‥」 「時間が戻って、また夏休みを過ごしたい、という願い」 「まぁ‥‥出来ることならね。夏休みの宿題も終わってないし。それに‥‥」 「それに?」 「お姉さんと夏休みを過ごせたら、夏休みが今日みたいに楽しめると思うしね」  ヒカルの無邪気(むじゃき)な笑顔につられて、魔女も微笑(ほほえ)み返した。 「そうか、そうか‥‥。なるほどね」 「それじゃーね」 「あ、ヒカル」  ヒカルが名残惜しそうに立ち去ろうとするが、魔女は呼び止めると、 「その願いを叶えてあげるわ」  軽いノリのままで言い放った。  突然(とつぜん)唐突(とうとつ)な発言に、ヒカルは「えっ?」と呆気(あっけ)に取られてしまう。 「ただし、チャンスは一日だけ。その一日以内に私を見つけて、私の名前を呼びなさい。そうしたら、もう一度夏休みを過ごさせてあげる!」  まるでゲームのルールを説明するかのように語りつつ、ヒカルの元へと近寄ってきた魔女は自分の手の平をヒカルの瞳に(おお)った。  当然、ヒカルの視界(しかい)(さえぎ)られて()暗闇(くらやみ)に包まる。 「よく覚えていなさい、私の名前は‥‥」  暗闇の中で響く魔女の声を聞いていると一陣の風が吹き抜けていき、ヒカルの意識(いしき)途切(とぎ)れていった。
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