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③
ヒカルは家に帰り着くと、優しく出迎えた母に恐る恐ると通知表を手渡した。
通知表を開いてから暫くすると、母の口からため息が漏れる。
「お母さんが、あんたぐらいの頃はもうちょっと良い成績だったんだけどね‥‥」
情けない成績にこの夏休みは塾にでも通わせようかと、ふと考えてしまう。
ヒカルはまだ小学四年生。まだ早いかなと思いつつも、鉄は熱いうちに打てともいう。
だけど、塾に行かせるにはお金がかかる。たださえ、まだ景気が良くない情勢で家計の財布が厳しい状態である。
ヒカルにオフレコではあるが“児童手当”なんて、子供のためには使えない現状なのだ。
「やっぱりゲームなんて買わなければ良かったのかしら‥‥」
その言葉にビクッと身体を震わせるヒカル。
『勉強するから』と、モズパを買って貰う条件としてねだったものだった。
しかしヒカルの内心は落ち着いていた。ゲーム機没収はされないからと。
内心楽観しているヒカルをよそに、母は悩んだ。
ただ闇雲に成績が悪いだの、結果について悪いと叱ることよりも、良い所を褒めなければ、せっかく伸びるものも伸びないままになってしまう。
ゲームを買ったのは七月初旬。そこから勉強を頑張ったとしても、一学期の成績に反映されるかは少々早計ではある。
とりあえず通知表のことは父親が帰ってきてから再度話し合おうということで切り上げた。
父親はいつもヒカルに甘いので、たまにはガツンと叱咤して貰いたかったのもある。
「‥‥とりあえず、ご飯にしましょうか。チャーハンでいい?」
「うん、それでいいよ!」
ヒカルは母がチャーハンを作る間、自分の部屋に戻り充電していた携帯ゲーム機を手に取った。
昼ご飯を待つ、僅かな空いた時間にでもゲームをすることが有意義な時間の使い方であった。
母は、そのゲームに対するモチベーションで勉強をしてくれれば良いのにと、深いため息を吐いたのたせった。
またゲーム機を何処かに隠そうかと考えつつ、手首のスナップを利かせてフライパンを返すと、ご飯が空中高くパラパラと舞い上がる。だが、数粒のご飯粒がコンロの周りに落ちたのであった。
勉学を望む母の気持ちも露知らず、ヒカルはさっそくモズパのゲームを起動させて開始し、モンスターリストを確認していたところで違和感‥‥というよりは、明らかに“おかしい点”を見つけた。
それはモンスターの“捕獲数”である。
夏休みが始まる前。つまり昨日時点では、五十匹程度だったはず。それが――
「全部、捕まえている‥‥」
モンスターをコンプリートしていた。
捕獲モンスターリストを下の方に移動させていくと、その中に隠しモンスター『ポルア』がいた。
ゲームのことに関しては覚えが良いヒカル。
なのに、このポルアをどうやって捕まえたのか、全く記憶になかった。
すると、ある“人物”の姿‥‥長い髪をなびかせた女性が、おぼろげながら脳裏に浮かんだが――
「ヒカル! ご飯、出来たわよ!」
母の声に人物の姿がかき消されてしまった。
「‥‥あ、うん」
気になりつつもゲーム機を持って居間へと向かうと、居間に醤油の香ばしい香りが漂い、ヒカルの空き腹を刺激する。
「いっただきます!」
ちゃんと手を合わせての恒例の作法を行ってから、ほっかほっかのチャーハンを頬張るヒカル。
「あら?」
いつもならご飯を食べるギリギリまで、むしろご飯を食べながらゲームをしているのにと。
ただチャーハンを食べる姿に思わず首をかしげてしまう母であった。
ヒカルはポルアと、先ほど脳裏に思い浮かんだ人物について思い出そうとしたが、頭に靄がかかったようで、何一つピンッと来なかったのであった。
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