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本当はメガネなんてきっとどうでもいいことなのだ。
桐谷君が私に振り回されて困惑している姿に堪らない愉悦を覚える。
どんなにわがままを言ったり、約束を反故にしたりしても決して怒ることなく、眉尻を下げてオロオロする様子が滑稽なのだ。
クラス内カーストが私よりも上位の彼を従えているという優越感も味わえる。
この愉悦と優越感に浸るために、私はさして好きでもない彼からの交際申し込みを受け入れた。
彼のメガネが好き。
その程度の好意を持つ相手が私には丁度いいのだ。
*
結局桐谷君の再三の誘いにも応じなかった私は、日曜日の午後の気怠い空気を持て余し、街へと繰り出した。
行くあてもなく、ショッピングモールの中をぶらぶらと見て回っていると、全国チェーンのメガネ屋の店頭でメガネを選ぶ桐谷君を見つけた。
暇なのに誘いに応じなかったのはばつが悪い。進路を変えようと踵を返そうとして、彼の隣に一人の少女がいることに気がついた。
親しげに体を寄せ合い、様々なフレームを手に取って彼が試着する度に、鏡越しの彼と楽しげに会話をしている。
心臓が大きく打ち、嫌な汗が背中を伝う。
私は逃げるようにその場を立ち去り、脇目もふらずに自宅へと駆け込んだ。
ベッドの布団に潜り込むと、緩んでいた口元から忍び笑いが漏れた。
これは面白い────
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