5人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
ゆるりと揺れる電車の中は、人同士がひしめき合う押し競饅頭状態だった。
私は、手すりを力強く握ると、脚に力を入れ倒れないようにしながら、前後左右からの圧迫感に耐え降りる駅をひたすら待つのだった。
『ニューさいたま――、ニューさいたま――』
若い車掌の声で、あたしが降りる目的地がアナウンスされる。しばらくすると電車がゆっくりと停車する。
「みぎゅう……」
押しつぶされそうな圧迫感を感じながらも、あたしはなんとか踏ん張った。
そして動きが止まると、電車の扉が勢い良く開いていく。
それと同時に、塞き止められていた水が決壊するがごとく、乗車していた多くの人間が一斉に扉の外へ流れ込んでいった。
あたしは、例のごとく液化した猫のようになると、人の流れに身を任せ、するりと隙間を抜け外に出ることができた。
「はふぅ……」
ホームに足を着くと駆け足で、その場から離れ一呼吸して息を整える。
「はぁ……やっと降りられた……。この時間はやっぱり危険だなぁ……」
あたしは、混雑しているホームを後にし改札を抜けると、周りに落ち着ける場所がないか辺りを見渡す。
改札口を少し歩くと小さな広場が見えてくる。
広場には、いくつか空いたベンチを見つけることができた。
最初のコメントを投稿しよう!