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「すいません。屋上の鍵を借りたいんですけど」
管理人室に行くと、もうすでに鍵を借りて持って行った人がいると言われた。
花火大会でもない限り、屋上を夜に使う人なんてめったにいない。
実樹かな……?
他の人がいたらどうしよう……?
今日はどうしても、星空の下で実樹と話したかった。
星を見ながらなら、実樹にちゃんと想いを伝えられるような気がした。
エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。
十五階で降り、屋上へ続く外階段のドアのハンドルを握る。
確かに鍵はかかっていなくて、キィッと少しきしんだ音を出してドアが開いた。
外階段からは、眼下に家々の明かりが星のようにまたたいているのが見える。
あの少し暗い辺りが、実樹といつも歩いた安楽坂。
星空のような夜景を分かつあの黒いラインが引寺川。
踊り場を過ぎると屋上が見える。
階段を上がりきった。
あれ?
誰もいない──?
と思った瞬間、
屋上のコンクリートの床に松葉杖を投げ出し、仰向けで寝転ぶ実樹を見つけた。
「ちょっと……実樹?」
まさか倒れているんじゃ──
慌てて近寄ると、実樹の目はちゃんと開いていて、夜空をまっすぐに見つめていた。
「今日、しぶんぎ座流星群が見えるんだって」
実樹が口を開いた。
「しぶんぎ座……?」
「うん。ニュースでやってた。三大流星群のひとつだって」
あたしは実樹の隣にしゃがんだまま夜空を見上げた。
丘の上に建つマンションの周りには明るい照明がないせいか、星がはっきり見える。
「さっきから見てるけど、もう三個流れ星を見つけた」
「へえ……」
服や髪が汚れるけど、もういいやって気分になって、あたしは実樹の横に仰向けで寝転んだ。
屋上のコンクリ床は氷のように冷たくて、あたしの鼓動が早くなるのを鎮めてくれる。
あたしが流れ星を見つけたら、願い事をかけよう。
“この関係を終わらせられますように”
そして、実樹に思いを伝えよう────
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