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大嫌いな言葉がある。
何百回、何千回も聞かされてきた言葉。
あたしを十五年間同じ場所に縛り続けてきた言葉。
その言葉が、今日もあたしに “そこに居ろ” と重い足枷となってまとわりつく。
*
「廣戸さん、いる?」
教室でお弁当を食べていたあたしは、顔だけ見知っている隣のクラスの女子に声をかけられた。
「私に何か用?」
「うん、ちょっと……。話したいことがあって」
ああ、またいつもの話か──
うんざりした表情を隠すことなく席を立つあたしを、向かい合わせに座る里佳子がからかう。
「晶も大変だねぇ。毎日ってくらい恋のキューピッド役させられて」
「ほんと。あたしに相談したって何も協力できないんだけどね」
いつものように苦笑いして、あたしは廊下で待つ女子のところへ向かった。
新緑の匂いを含んだ風が吹き込む廊下の窓際でほぼ初対面の彼女と向かい合う。
「えっと……、何さん、だっけ?」
「森川です」
ふんわりと肩まで伸びたくせっ毛。
ほとんどスッピンなのに目元がぱっちりした、愛嬌のある可愛らしい人。
「森川さんも、実樹のこと、何か相談したいの?」
「……」
「あ、ごめんね。単刀直入で。もう、こういうのしょっちゅうでさ」
「だよね。知ってる」
森川さんはそんなことわかってる、みたいな笑顔だ。
「実樹に今カノジョいるのは知ってるよね?」
「もちろん知ってるよ。むしろ知らない人はいないくらいだよね」
崩れない笑顔。
それならあたしに何を期待しているんだろう?
貼り付けた愛想笑いが剥がれそうになるのを堪えていると、森川さんは笑顔の前で両手を合わせて小首を傾げた。
「廣戸さんにお願いがあるの。実樹君と山井さんが別れたら、すぐに私に教えてもらえないかな?」
「……え?」
「高校入学以来、実樹君これでカノジョ4人目でしょ? 次は私にもチャンスあるかもだから、すぐに教えてほしいの。今まで何回も告白のチャンス逃しちゃってて……」
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