第一章 外せない足枷

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 身構えていたところに予想の範囲内の頼みごとが舞い込んできて、あたしは用意していたため息を彼女の目の前で盛大に吐いてみせた。 「教えることくらいはできるけど、あたしそれ以上のことは何もできないよ? 森川さんみたいに相談してくる人ほかにも何人もいてさ。誰に加勢するってわけにもいかないし……」  この手の話のときには、あたしはいつも同じように断っている。  けれども皆あたしに相談をするのをやめないんだ。  理由はただ一つ。  足枷となっているあたしの大嫌いな言葉が無慈悲に押し付けてくる、たった一つのその理由。 「そうだよね。わかってる。でも、廣戸さんに相談するのがやっぱり一番手っ取り早いと思って。だって、廣戸さん……」  来る。あの言葉── 「実樹君の幼馴染みなんだもん」  心臓がキュッて小さく鳴いた。 「……そのわりに役に立たなくてごめんね」  いつもみたいに、あたしは笑顔で謝る。 「ううん。実樹君のいろいろな情報を教えてもらえるだけで助かるから。これからもよろしくね」  森川さんは可愛らしい笑顔をあたしに向けると、小さく手を振って教室に戻っていった。  * 「やっぱりまた実樹のことだったの?」  席に戻ると、ニヤニヤしながら里佳子が前のめりで尋ねてきた。 「まあね。ほんと、あたしが誰かに協力したことなんてないのに、なんでみんな言ってくるんだろ」  固い椅子の背もたれに上半身の体重を預けて、あたしは憮然として言った。 「でも結果的にさぁ、晶に相談したコたちの誰かが実樹と付き合ったりするから、あんたに相談すると付き合えるかもって思うのかもよ?」 「それは実樹が来る者拒まずのせいなんだけどねぇ……」  ほんとに実樹にはほとほと困ってる。  どうせ付き合うなら、本気で好きになった女のコと付き合ってよ。  そうしたらあたしも、もっと楽になれるかもしれないのに────
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