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今日も部活が終わった。
着替え終わって部室を出る。
さっきまで三年の先輩達が猛練習してたテニスコートは薄暗くなった風景の中に沈んで、ネットの白さだけがぼわんと浮かび上がっている。
テニスコートの横を通っていつものように南門に向かうと、人の影が見えた。
誰なのかはすぐわかる。
シルエットだけであたしの鼓動を早くするのは、彼だけだから──
「山井さん待ってるの?」
門の脇にたたずむ実樹にあたしは声をかけた。
「違う。お前を待ってたの」
あたしを見て実樹が微笑む。
少し大きめの前歯がこぼれる。
形の整いすぎた涼やかな目元が少したれて細くなる。
ああ。実樹の笑い方だ──
あたしだけが知る実樹らしさに弾む心を隠すように、緩む口元にぎゅっと力を入れる。
「ヤバイよ! 用があるなら家に帰ってからにしてよ。こんなとこ見られたら、また山井さんになんて言われるか……」
周囲をキョロキョロ見渡すあたしに、実樹がクスッと笑った。
「大丈夫だよ。あいつとは今日別れた」
「はぁ!?」
大げさに驚くふりをしつつ、内心はちょっとほっとする。
今回も長くは続かなったんだ。
実樹の隣を歩く女が再びあたしだけになる嬉しさ。
けれど、同時にがっかりもする。
その場所はきっとまたすぐ誰かに奪われるっていう悲観的予測。
予測が現実になったときの軽い絶望。
あたしはこのアップダウンを何回繰り返せばダメージを受けなくなるんだろう?
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