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「実樹だって、あたしに ”良い子いない?” って相談してくれれば、紹介できなくもないんだよ?」
「そんなのできるわけねーよ」
丘の上のマンションに向かって続く安楽坂を、実樹はあたしの前を下を向いて歩く。
小学校も、中学校も、あたし達はこの安楽坂を二人で歩いて帰った。
坂道は歩道が狭くて、いつも実樹が前で、あたしが後ろを歩くって決まってた。
ランドセルを背負う後ろ姿を、
まだぶかぶかの中学の制服の後ろ姿を、
その制服が破けそうなくらい大きくなった背中を、
あたしはいつも見つめながら上ってた。
「幼稚園の頃から何かとお世話してきてあげたじゃない? 実樹が困ってるときには大抵あたしが助けたんだから」
からかうように言ったけど、坂道で息が上がって言葉が途切れ途切れになる。
おかげで、本当に紹介を頼まれたらどうしようっていう動揺は隠せてるだろうか。
「晶が紹介してくれたコと付き合ったら、お前がまた他の女に何か言われるんだろ? そんな迷惑かけられねえよ」
またあたしのことを気にしてくれている。
実樹は優しいんだ。小さいころからずっと。
あたしにすごく優しい。
当たり前にあった優しさを特別なものだと思うようになったのはいつからだろう。
「ま、幼馴染みがモテメンでお前も苦労するよな」
坂を上がりきった実樹がいたずらっぽく笑いながら振り向く。
実樹の口から出る ”あの言葉” は、他の人の口から出るより百倍強くあたしの心を締めつける。
「自分でそれ言うな!」
泣きそうになった顔を、ムカついたと言わんばかりの口調でごまかした。
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