最終章 星に願いを

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「そんな忙しいときに、わざわざ来てくれてありがとうねー。お見舞いでいただいたお菓子あるから、あーちゃん食べて!」 「ありがとう」 「あーちゃんのおうち、今度のお正月も旅行に行くんでしょう? いいわねぇ。うちなんてパパの実家が田舎の旧家だから、親戚中がお正月に集まるのよ。私も新年会の手伝いをしなきゃだから、実樹にはお正月明けまで病院にいてもらうことになってね」  いつものように繰り広げられるおしゃべりに、実樹が呆れたように口を挟んだ。 「母さん少し黙れよ。晶は母さんと喋りに来たんじゃねーよ。俺の見舞いだろ?」 「だって、あーちゃんと会うの久しぶりだもの。いいでしょ、母さんが話したって」 「一花ちゃんは今日はもう来たの?」 親子のやり取りに紛れて、気になっていたことをさり気なく尋ねてみた。 「ああ。午前中に」という実樹の答えにほっとすると、おしゃべりなみっくんママが割って入ってきた。 「一花ちゃんねぇ。毎日お見舞いに来てくれるのよ。ちょっとしたケンカくらい、恋人同士だったら誰でもあるのにねぇ。飛び出した実樹が不注意だったんだから、そんなに責任感じなくてもいいのに」  みっくんママの “恋人同士” っていう言葉に心がチクンと痛む。 「ねえ、どうして一花ちゃんとケンカになったの?」  あたしが聞くと、実樹は黙って目を伏せた。  言いたくないって顔をした実樹に代わってみっくんママが口を開く。 「それがね、私が聞いても教えてくれないのよ。たいしたことじゃないって言うだけで。実際一花ちゃんと仲良くしてるところを見ると、たいしたことじゃなかったんだろうけど」  また傷ついた。  一花ちゃんは毎日病院に来て、実樹と仲良くしているんだ……。  みっくんママの何気ない一言一言に反応してしまう自分が情けない。 「母さん、お菓子だけ出してもしょうがないだろ。 晶にコーヒーかなんか買ってきてやってよ」 「あ、それもそうね。あーちゃん、ちょっと待っててね」 「ついでに売店で俺にハードグミ買ってきて」 「また!? 実樹、あんた運動してないのに太るわよ!」 「女じゃねーんだからそんな簡単に肉つかねーよ」  時間稼ぎに売店まで行ってもらうことが見え見えで、あたしは二人の会話に思わず笑ってしまった。  みっくんママは「実樹とゆっくり話していてね」と言い残して病室を出た。
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