最終章 星に願いを

9/15
前へ
/110ページ
次へ
 あたしをまっすぐに見つめる駿汰の目はとても優しかった。 「俺は実樹の親友だからわかる。あいつも今揺れている。晶が真剣にぶつかっていけば、実樹にきっと思いは通じるから」 「駿汰……」  冷たくなった頬に涙が流れる。  涙ってこんなに温かいんだって感じる。  あたしは結局、駿汰の気持ちに応えられなかった。  大きくて優しい胸に飛び込めなかった。  けれど、「ごめんなさい」なんて言葉は、駿汰にあまりにも失礼だ。 「ほんとに……ほんとに、ありがとう」  あたしの気持ちが駿汰にまっすぐ届くように、  この星たちと一緒に駿汰の心に降り積もるように、  できるだけゆっくりと、そしてはっきりと言った。 「ん」  駿汰はまたニッと微笑んだ。  青雲寮の窓から漏れる光が、駿汰の目元で微かに反射していた。 「実樹、退院してもしばらくは登下校で歩けないだろうな……。俺はもうお前を送り迎えしないけど、お前は一人で大丈夫か?」 「うん。大丈夫。一人でも歩けるよ」 「そうか」  駿汰を振り回したあたしのことをそこまで気遣ってくれるんだ。  でも、あたしにはもう覚悟ができている。  安楽坂(やすらぎざか)を一人で上る覚悟も。 「まあでも、あれだ。送り迎えはしねーけど、友達はやめないでくれよな」 「当たり前だよ! むしろ、友達やめないでいてくれるの?」 「当たり前だろ?」  駿汰とあたしはニッと微笑み合った。  そして、どちらからともなく、また星空を見上げた。  夏の日の星降る夜、あたしは駿汰に “変わらなくていい” って言葉をもらった。  冬の星座が静かにまたたく夜、あたしは駿汰に “傷ついても前を向け” って言葉をもらった。  正反対の言葉だけれど、どっちも星と一緒にあたしの心に降ってきた言葉だった。  静かに。優しく。ゆっくりと──  傷ついても、もう迷わない。  冬の夜空を眺めながら、あたしはもう一度強く心に誓った。
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加