最終章 星に願いを

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 一月四日。  今日は実樹が退院する日だ。  みっくんママから母が聞いた話では、お昼前に退院手続きをとって、午後には帰宅しているらしい。  あたしは自分の部屋の勉強机で、スマホを見つめている。  傷ついても、傷つけても、もう迷わない──  心に誓った言葉を、もう一度ゆっくりと心の中で繰り返す。  “傷ついても、前を向け”  駿汰からもらった言葉も思い出す。  あたしはゆっくりと一回深呼吸をしてから、スマホの画面をタップした。  トゥルルルル……  トゥルルルル……  トゥルルルル…… 「はい」  大好きな人の声がした。 「退院……したんだよね? おめでとう」 「うん。サンキュ」 「もう家にいるの?」 「ああ。さっき帰ってきた。久しぶり過ぎて、なんだか浦島太郎になった気分だよ」 「そっか。松葉杖は? うまく使えてる?」 「うん、まあ。家の中は狭いし、ちょっと病院と勝手が違うけど、すぐ慣れるんじゃね?」 「そっか……」  傷ついても、もう迷わない── 「あのね、実樹。今晩、マンションの屋上に来れる?」 「屋上? ……ああ。大丈夫だけど」 「話があるんだ。八時に、屋上で待ってる」 「……わかった」  それだけ話して、あたしは電話を切った。  傷ついても、もう迷わない──  あたしは心の中で何度も繰り返す。
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