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奥歯に物が挟まった言い方が引っかかり、私は昨夜のことを話しました。
「やっぱり……」
「え? やっぱりって、どういうことですか?」
「ああ、大抵ウチの新人は見てるんだよ、あの男の子」
「えぇーッ!」
私は心底驚きました、あの子をみんなが知っているなんて。
「まぁ、通過儀礼みたいなもんだから」
「あの子は誰なんです?」
「旅館の裏の墓場に埋葬された子供の霊らしい。どうやらウチの劇団員の前にしか姿を現さないみたいだ」
先輩の話によると、初めてこの旅館に泊まった劇団員は大抵あの男の子を見るそうです。
ところが、主人に確認しても幽霊が出るという話は他に聞かないということでした。
ただ、主人の幼馴染みの男の子が病で亡くなっており、彼は小学校で上演される演劇を楽しみにしていましたが、結局観ることはなかったとか。
あの男の子が言っていた「みせてよ」とは芝居を観せて欲しいということだったのでしょうか。
「娯楽の少ない時代だったから、きっと凄く楽しみにしていたんですね」
私は染みじみと言いました。
あんなに怯えなければ良かった。
「娯楽は多い時代だからこそ、こんな物もあるんだって子供に教えてやらないとな?」
「はい!」
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