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第七中学校始業式。
満開の桜の下を、笑顔で生徒達が歩いて行く。
「先生、おはよう!久しぶり!」
「おー、前田か!元気そうだな!」
生徒指導主任の竹林の日課は、毎朝校門で生徒達に挨拶をすることだ。
昨年の一年生達の数学を担当した甲斐もあり、大勢の生徒が挨拶をしてくれる。
さっき通った前田七夏は特に竹林のことを好いていた、実に可愛らしい生徒だ。
そう、どちらかといえば年配な竹林から見ればどの生徒もとても可愛らしい。ただ、一人を除いて。
「お早うございます。」
凛とした低く透き通るような声に歩いていた生徒達が足を止めて振り返る。
声の主は『可愛らしくない』生徒、一色紗夜子だった。
隣にはいつも通り西風すずながついている。
「おはよう、一色!久しぶりだな!」
「先生もお元気そうで何よりです。ではまた。」
竹林の横をするりと通り抜けると、何食わぬ顔で歩いて行った。
後ろから数名の女子がわらわらとついて行く。
「…はー、相変わらずだなー。」
竹林はため息をつくと、気を取り直すためにと軽く頬を叩いた。
(あの雰囲気も、つい黙ってしまう感じも、ついて歩く女子の数も。何も変わっていない。うるさくないのに、扱いづらいんだよなー…。)
紗夜子の声で足を止めていた生徒たちが再び歩き出す。
竹林はまた大きな声で挨拶をするのだった。
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