2人が本棚に入れています
本棚に追加
6
荒れ放題の酒場はすえた臭いが充満し、外より更に悪い環境だった。
カウンターもテーブルも壊れて転がり、もとは何だったのか判らないようなものが散乱している。
眉をひそめたマースラが明かりを作るとようやく屋内の輪郭が把握できるようになり、見回したマースラはさらに表情を歪めた。
「人のいれる場所じゃないよね……」
「さあて、な」
片腕で鼻と口をおおって、ヴァダーはカウンターへ向かう。
「こういうのは大抵、地下と相場が決まっているもんだが」
と、壊れた椅子を蹴飛ばして奥へ進む。
「そういうところ、感心するわ……」
マースラもヴァダーに倣って鼻と口に右袖を当てて左肩に留める。
カウンターの内側に、地下へ行けるのであろう蓋が床にあった。
「やっぱりな」
ヴァダーがその蓋を踵で数度蹴る。
「これでもし捕まえられて、警邏隊に引き渡したらもの凄いスピード解決よね」
マースラが布の奥からくもぐった声を出してしゃがむ。蓋戸の取っ手に左手をかざして施錠されていることを確認する。
「そうだな。浴びるくらい飲み食いしてから報酬でもせしめるか」
ヴァダーも軽口で返し、戸から少し離れた。
それを見てからマースラが数語呟くと、錆びた音を響かせて鍵が解けた。
慎重にヴァダーがその戸を引き上げると、下からの風圧がヴァダーの体を押し上げた。
「なるほどね」
マースラが頷く。「強い『風』の力をここに働かせて、地下にこの――臭いとかが行かないようにしてるんだわ、きっと」風はマースラが留めていたピンも飛ばし、右袖がだらりと落ちてしまうがマースラは気にすることなく地下に注意を払う。
最初のコメントを投稿しよう!