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戸の開いた先は地下へ続く急勾配の階段になっていた。下はもとは貯蔵庫だったのだろうか、ひんやりとした空気が昇ってくる。
そこから漂ってくるのは腐臭ではなかった。
「何かいるな……」
ヴァダーの片手が剣にかかっていた。
階下からは骸の発するものではない、生臭いものが微かに漂ってきていた。
「虎穴に入らずば、かな、これは……」
マースラはすでに、左手に剣を持っていた。
その手を階段に差し入れ、手から生み出した光の珠を先に投げ込む。
反応はない。
ヴァダーが剣を抜いて足より下に向け、先に階段を下りる。少し後ろからマースラが続き、入り口の扉を器用に閉じた。
中はやはり、貯蔵庫だったらしい。
大樽や棚が残っており、しかしそれは使われている形跡はなかった。
階上のような悪臭は薄く、光源はマースラのつくった明かりのみだった。
結構な広さの空間を作っていたらしく、簡単な光では四隅まで届かない。
マースラが光量を強くすると、壁の一角に座っていた男が映し出された。
男は相当に衰弱した様子で痩せ細っていたが、眩しそうに目を細める様子が見て取れた。
「生きてはいる、か……」
ヴァダーが剣を収める。 よく見ると、男の足は壁から出た鎖に繋がれているように見える。
「ルイバローフ……?」
マースラは数歩近付いて声をかける。
男は顔を上げ、光源を天井に移動させたマースラの顔を見る。細めていた目が見る見る大きくなり、男は掠れた声を喉から絞り出した。
「お前――まさか、っ」
「わたしが誰か、なんてのは大した問題じゃないの。ルイバローフね?」
男は嗄れた笑いで応える。
「どういうことだ? これは」
「協会はやはり、表向きはこの男の存在を所属から抹消しておいて、裏ではこうやって認知している、ということ。しかし……すんなり私に教えたのが気にかかるわ」
マースラはルイバローフと思しき男に更に近寄った。
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