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眉を寄せたヴァダーが、取り出したロープで『妖術師』を拘束した。
「ひとつ教えて、ルイバローフ。
あなた――魔術は使えるの? スタラナーが奪った、と言っていたけど」
男はマースラを見てにやりと笑った。
「一時的にな。確かにアレの研究は、一時私の力を封じ込めた。取り戻すまで相当時間がかかったよ」
マースラは何か考えるように、厚めの唇に手をあてた。「一時的でも可能なのか……」と小声で洩らす。
それから、ヴァダーの肩を叩いた。
「何か喚ばれるとやっかいだから、音を出せないようにして連れて行きましょう。早いところ報酬もらって、ゆっくり休みたいわ」
そう言って、マースラは気怠げな長い息を吐いた。
7
王立学士院・司書管理室に二人の男がいた。
ひとりは机についた老人、もう片方は初老くらい。
「あの娘とその連れがルイバローフを警邏隊に引き渡してしまったようですな」
初老の男が重い口調で告げる。
「多少はあの娘に期待したのだが、適わなかったか。あれが余計な事を言うことはないだろうが……あの才能を亡くしたのは惜しいな、やはり」
老人は溜息とも呟きともつかない調子で言う。
「研究資料の在処が判らないままですが」
「ゆっくりと探すしかないだろうな、まったく」
今度こそ深いため息を、老人――アトスターフカは吐いていた。
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