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泰王府を開く前、ここには母妃柳氏の大伯父の屋敷があった。丞相に任じられるほどの人だったが、子はなく、泰王が生まれてしばらくして亡くなった。「財産を幼い第三皇子に譲る。十八になったら、この屋敷に王府を開くように」と遺言を残して。
成長した第三皇子は、泰王に封じられることが決まり、亡き太子と同時に後宮を出ることになった。太子は十九で慣例よりも一年遅く、泰王は十七で一年早かった。二人が同時に一家を成すことにしたいと主張したのである。張皇后が旧柳府に手を加えて泰王府を開かせた。まだ少年といえた頃のことである。
一年かけて手を加えるにあたり、泰王は何度も太子と訪れた。東宮の方は、張皇后の采配下にあり、太子が一人で手を加えることは許されなかった。しかし泰王府は違う。
初めて訪れたときに、古びた屋敷のなかで合歓花樹の花が満開だった。これは残すべきだと太子が主張して、そのようにした。
「合歓木王府だな」
そして、合歓木を意匠した玉佩を贈ってくれた。この玉佩は泰王の腰に飾ってある。
翌年、太子が亡くなり賢徳太子と諡された。病で泰王の左の足はほとんど麻痺してしまった。今では歩くのもやっとだ。泰王は、亡き太子と最も親しかったにもかかわらず、形見は一切分け与えられなかった。密かに、四弟によって持ち出された小石のみを除いて。
泰王は合歓木こそ、太子の形見だと思うことにひた。
同母弟の第六皇子の徐王が後宮を出るとき、張氏は泰王にその広さは必要ではなく、徐王にも泰王府の広さは必要ではない、といって、泰王府を分割して徐王府と泰王府に分けさせた。泰王にも徐王にも抗うことはできなかったが、唯一の抵抗として泰王はこの合歓木のある方を選んだ。
「ここには何を植えましょうか」
王妃が呟いた。
「そなたに任せる」
「殿下と二人、仲良く過ごせますように。また合歓木にしましょうか」
それもよい。
「殿下」
庭師がいくつか合歓木の豆を二人に見せた。
「タネを採りましたので、これを育ててみましょうか。春には植えられるようになると思いまさぁ」
「そのようにしてくれ」
大木が倒れ、子がそのあとをうまく継げれば良い。
ー樹も父と同じだな
当今は今、倒れようとしていた。
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