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秋の風が吹く。昼間は残暑が残るが夜間は寒い。今年は、合歓木の大木がないので風が屋敷に通るようになった。風が通れば夏は涼しいだろうか。木陰がないので夏の庭はより暑いのだろうか。
泰王はゴホンと咳をして、眠れないでいた。
王府は元の三分の一の大きさとはいえ、都の中にあっても風に葉がそよぎ、虫の合唱が聞こえるだけである。いや、もう一つ。傍らで眠る王妃のいびきがあった。
普通、皇子であれば正室に複数の側室や側女を置くものである。足の悪い泰王には正妃一人がいるだけだ。その正妃は婚約したときとは打って変わって見込みが一切なくなり、故丞相の財産だけで生きているような皇子に嫁いで来たのだが、文句一つ言わず、むしろ労ってくれる。
—あのとき、花嫁衣裳をつけて、押しかけてきてくれて、本当に良かった
安眠を妨げる王妃のいびきであるが、それくらいなんでもない。
トトトと慌てた足音がした。
「殿下」
「何事である」
家人が答えた。
「門の前に禁軍兵がおります」
ー来たか
禁軍符は病床の今上の手を離れ、太子の手中にある。
「衛兵には抵抗するなと伝えよ」
「……何事ですの」
目を擦りながら王妃が身を起こした。
「心配するでない」
トントンと軽く王妃の暖かな手を撫で、泰王は夜着のまま寝所を出た。出たとは言っても足の悪い泰王のことである。速度は遅く、纏足の王妃がよったよったと追いかけて上着をかけた。
「心配するでないぞ」
王妃の手をまた軽く撫でて泰王は言った。
この人はどんな美女よりも得難い。
「禁軍兵は?」
「門から入ることもありません。ただ、いるだけです」
家人は不安げに泰王を見た。
「心配することはない。好きにさせよ。それよりも徐王は」
徐王とは同腹弟の第六皇子のことである。
「王爺、徐王殿下から伺っても良いかとのことです」
「木戸を開けよ」
徐王府と泰王府は、泰王が王府を開いたときには一つの屋敷であったものを、徐王が王府を開くにあたって廃后の命により南の三分の二を徐王府に、北の三分の一を泰王府に改築させられたのである。
徐王は森羅万象に怯える。
何かあればすぐに来られるように、と密かに塀に穴を開け、木戸をつけた。どちら側にも鍵があるので、一方的に通行することはできない。
おそらく、廃后も廃太子も、今の太子も、ひょっとすると今上すらもこのことは知っていたであろうが、怯える徐王を泰王が引き受けるだけであると、これまで不問に付されてきた。
「兄上」
おそらく木戸の前に徐王本人が来ていたのだろう。転がり込むように徐王がやってきた。
「禁軍であろう」
「はい。なんのいわれがあって禁軍が我が王府に」
徐王はぶるぶると体を震わせた。まるでネズミのようだ。
「沙汰を待つしかあるまい」
ー皇父が崩御された
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