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この大夏王朝のみならず、どの王朝であっても、代替わりはすんなりといくものではない。しかも今は、長江の北の、蛮族が国境を犯しつつある。
確かに今上はほぼすべての政務・軍務を太子に任せておられたが、皇位を主張しうる者はここに二人もいる。我らにその意がなくとも、例えば蛮族に呼応した者が軍を率いて我らを拉致し、宮中に押し入り即位させることも考えられないわけではない。
まずは太子の即位の儀が行われてからのことである。
耳を澄ませれば、車が通る音がするようにも思う。六部の尚書たちが呼ばれたのだろうか。
ーあれは、太子が我らをその手中に置いたということなんだよ、我らを保護しているのだ
それを言葉にしないとわからない程度の者には設明してやる必要などない。
言葉は刃物だ。発した言葉が聞いた者ではなく、発した者の首を掻っ切る。
夜が白み始めると、王府でも朝の支度をする音がしはじめた。その遠くをよく耳を澄ませると市中の者たちの生活の音が聞こえるような気がする。
何も変わらない朝、になるわけはない。
「王爺」
家人の声が震えている。
「ちょ、勅令でございます」
門を開けると皇帝の側近の陳太監が入ってきた。
「皇兄へ勅令を下す。泰郡王・楊昭は至急宮中に参内せよ」
同じ勅令が徐王にも降った。ただし、皇弟と呼びかけられた。
「皇弟」
徐王はようやく気付いたようだ。
「父皇が崩御され、太子殿下がこの国の舵を握られたのだ」
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