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命じられるまま、泰王は王府へ戻った。
約半年ぶりの王府である。
王府は質素だが、王妃の好みで、花だけはできる限りどこかにあるようにしてある。新年の前の、最も寒い時期ですら、蝋梅が咲き、甘い匂いを放つものであった。盛春の今は、庭の様々な花が咲く。
さすがに御花園ほどではない。
花の咲き乱れる中にいた泰王はどうしても見比べて見劣りすると思う。
「あぁれ、王爺」
素っ頓狂な声を出したのが、王妃であった。
庭で土をいじって遊んでいたのである。髪に飾りもつけず、汚れても良いような、粗末な衣を着ていて、色の白さがなければ、どこの農夫の妻かと思うほどであった。
纏足をした足でよったよったと歩いてくる。
どうせ、我が家である。
泰王も杖をつきながらよったよったと歩き、杖を離して王妃を抱きしめた。
側から見れば、喪服から変える服もない、足の悪い貧しい男とその妻に見えるだろう。それで良いではないか。
「皇陵はあまりに寂しくて王妃が懐かしくて懐かしくてたまらなかった」
「皇后娘娘からだと、芙蓉という女官が来ては不足はないかと細かく聞かれましたが、身重のお方に煩わせるのもいかがかと思いまして」
「それで良い」
「父王さまー!」
郡主が父母に飛びついた。
ーこの平凡こそ、幸せである
そう思えば、父帝がこの国を、争わぬ「呉」という地方国家にしてしまおうとした気持ちも分からなくはない。
同時に、賢徳太子が、そして今上が、統一を果たして、可能な限り長く、この平凡な幸せを保証したいという気持ちもわかる。
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