Writers ー翡翠の書ー

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「痛っ!」  また、お尻を打った。  目の前には彼が椅子に座っていた。私を外に出してくれたようだ。 「終わったからもういいよ。奪ってごめんとだけ伝えといて。」  彼は私に向けて魔導書を差し出す。  私は少し考えてから、魔導書を押し戻す。 「自分で返してきなさい。誤植がありましたって言って。」  彼は一瞬驚いた顔をして、ため息をつく。 「やっぱこの中に入れるんじゃなかった………。わかったよ。そうする。」  彼は青い上着を羽織り、服と同じ色のハットを被ると、本を抱えて立ち上がる。 「はぁ………面倒くさいなぁ。」 「面倒なことをしたのはあなたでしょ。」 「はいはい。そうですね。」  そして彼は扉に手をかけようとして、 「大変です!兵長!」  大慌てで入ってきた私の部下が開けた扉にぶつかった。 「だ、大丈夫!?」 「痛い………。」 「あ、す、すいません!大変です!魔導書が盗まれました!」 「え?いや、翡翠の書ならここに………。」 「違います!全ての魔導書が盗まれたんです!」 「「はぁ!?」」  部下の話では、私が翡翠の書の犯人に会うと言って出て数時間後に、他の魔導書も盗まれていたことがわかったとのこと。  盗んだ人物は不明で、著者も行方不明らしい。 「とにかく一度王宮に戻ってください!対策を練りましょう!」 「ええ。あなたも来てくれるわよね?」  彼はその問いにため息とともに答える。 「犯人扱いは嫌だからね。行かせてもらうよ。」 「ええ。行きましょう!」  そして私達は走り出す。 「みんな上手くやったんだね………。」  彼のその言葉を聞き逃していたのに気がついたのはまた別のお話。
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