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どちらかというと佐久間は酒が強いから、ここまで酔うなんて珍しい。俺が佐久間以上に酒が強いので、釣られて飲み過ぎたんだろう。
余り酒は好きじゃないから飲まないんだけれど、今日は珍しく飲み過ぎたな。
大通りに出るとすぐにタクシーを捕まえ、佐久間を押し込んで見送った。
薄暗い中に散りばめられた人工的な灯り。吸い込まれるように車が消えていくと、取り残されたような気分になった。
右に進めば自宅マンションへと向かうのに、逆方向になる左の道に視線を向ける。
俺と同じで彼女も会社近くに住んでいる。
歩いていける距離。知ってても行ける資格は無いのに、なぜ急に逢いたいと思ったりするんだろう。
「面倒くさ……」
どうにもならない気持ちは、処理するのが億劫だ。
たまに来るこの発作みたいな感情は、濡れたロープを首に掛けられてるんじゃないかと思うくらい息苦しい。
乾くと締め付けてくる。
潤うとその縛りから解放されるが引き千切れない、呪いのようなもの。
こんな時は猛烈に井藤が羨ましくなる。
彼女に逢いに行けるのも、触れることが出来るのも井藤だけだ。
余計な事は考えたくなくて、振り切るように右の道を歩く。夜風は冷たく、秋の訪れを感じさせた。
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