翻雲覆雨《ほんうんふくう》

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11月に入ると流石に肌寒くなった。 街路樹から覗く薄い青空。散らばった雲の動きは早く、午後から雨になるという天気予報を思い出させた。 会社に行く俺の身体を押す風も強い。まるで行く手を阻まれているようだ。 そんなに強く吹かないで欲しい。ただでさえ会社に行くのが億劫なのに。 仕事が始まると、俺は西島さんの席へと移動する。携わる仕事の事は一通り教えたので、彼女が1人でやっていけるように見守る。 「あっ、すみません!」 隣に座る俺の方に資料を落とした西島さんは、大慌てでそれを拾った。その時に俺の足にも触れて、真っ赤な顔をしてペコペコ頭を下げる。 「気にしてない。大丈夫、落ち着いて」 宥めるように言いながら、乱れた資料を整えるのを手伝う。 彼女はどうも必要以上に緊張するタイプのようだ。落としたカタログと一緒に、束になったコピー用紙が目に留まる。
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