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「子供じゃないから心配なんじゃないか。俺がいない間に咲言い寄る男が居るかも知れないだろう」
真剣な顔でそんな事を言う父親に私は小さな溜息を漏らす。
たった2日の出張で何があると言うんだ。
「そんな人居ませんよ。たとえいたとしても、私が愛してるのは豪君だけだもの。あなたこそ出張先で言い寄る女性がいるんじゃないかしら」
「そんなのが居ても、俺が愛してるのは咲だけだよ」
「あなた」
「咲」
熱の籠もった瞳で見つめ合う両親に、砂を吐きそうになる。
はいはい、いつまでもラブラブで良いですね。
娘の目の前で愛情を確かめ合う両親に辟易しながら、私は目の前の朝食を食べ始めた。
うちの家にとってこんなのは日常茶飯事なので、あえて私も突っ込まない。
両親が仲がいいのはいい事だけど、こんなのは二人きりの時にやって貰いたいと切実に願うわ。
手を取り合う両親を尻目に、今朝は高虎が居ないんだと家族だけの食卓を見てぼんやり思う。
大方、昨日の夜に夜遊びしてたんでしょうね。
高虎は夜遊びした次の日の朝はたいていうちにいない。
私の平穏が保たれる事は誠に素晴らしい。
朝から高虎のせいで苛つく事が無いのは、ありがたい。
学校に行けば奴はいるけど、話しかけて来たり近寄ってきたりしないので、精神的にやられる事は無いもんね。
素晴らしい朝に感動を覚えつつも、砂を吐きそうなぐらいラブラブしてる両親を放置して朝食を進めた。
お母さんの料理は相変わらず美味しいや。
あいつが居ないだけで、こんなにも朝ごはんを美味しく感じるなんて幸せだよ。
「咲、お土産を買ってくるから良い子でいるんだよ」
「フフフ、楽しみにしてるわね」
「ああ。とっておきのお土産を用意するよ」
「嬉しい」
顔を突き合わせて会話する両親。
お父さん、お土産もいいけど、しっかりと仕事してよね。
出張は遊びじゃないんだし。
本当、どうやったら、いつまでもこんな初々しい感じでいられるのかね。
冷めた視線を送りつつも、今日も我が家は平和だと思った。
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