鳴き声と泣き声

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 ひたいから流れる汗を拭う。  暑さのなかで、聴こえるのは蝉たちの声。  その声に誘われ森へ足を踏み込む。  ひやりとした冷気。  水の流れる音。  その森の中でも蝉たちは鳴いていた。  私は素足になり、浅い水の流れに足先を浸す。  冷たい。  遠くで水しぶきの轟音が微かに届く。  さみしい。  不意にこの閉ざされた世界が、さみしいと泣いているように私に囁く。  夏のさかりは、さみしい……と。  その悲しみは蝉へと向けられていて、私は目を閉じて彼らの泣き声に耳をすました。  いま叫んでいる彼らは、あとどのくらいの時が残っているのだろうか。  蝉の声、水の悲しみ、森の嘆き。  私の夏ははじまる。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加