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ひたいから流れる汗を拭う。
暑さのなかで、聴こえるのは蝉たちの声。
その声に誘われ森へ足を踏み込む。
ひやりとした冷気。
水の流れる音。
その森の中でも蝉たちは鳴いていた。
私は素足になり、浅い水の流れに足先を浸す。
冷たい。
遠くで水しぶきの轟音が微かに届く。
さみしい。
不意にこの閉ざされた世界が、さみしいと泣いているように私に囁く。
夏のさかりは、さみしい……と。
その悲しみは蝉へと向けられていて、私は目を閉じて彼らの泣き声に耳をすました。
いま叫んでいる彼らは、あとどのくらいの時が残っているのだろうか。
蝉の声、水の悲しみ、森の嘆き。
私の夏ははじまる。
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