1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
転生
A子は母とともに病院をあとにした。2年近く入院していた大学病院。
セミの交響。ひまわり、日差し。
すべてが二年ぶりだ。
足りないのは、彼女の幼馴染のB太だけである。
彼は3ヵ月前、不治の病を奇跡的に感知させたA子の退院が決まった時期に学校の屋上から自殺してしまった。
遺書は残っていなかったそうだ。
彼は父をなくしたA子にとって大切な男性だった。
彼女の父は科学者であった。世の人は誰もが知る科学者であった。人間のクローン細胞を開発したのである。これは歴史的快挙であった。人類は死ぬたび再生を遂げる。それはある意味での不死身の獲得だ。死に対しての秩序など崩壊してしまった。
そう言えば、彼が彼女の家の隣に越してきたのは父が亡くなった直後だった。
A子はふと考えた。いつもそばにいてくれた彼は父のクローンだったのではないか。と。
今はそれを確かめることも出来ない。
家に帰ると、A子の家の隣はポッカリと空き地になっていた。
閑散とした土地に直立不動で立っている男性がいた。彼はこちらを向くと驚いた表情ひとつせず
「隣に越してきたものです」
と告げた。彼もまたクローンなのであろうか。確かめることはしない。
最初のコメントを投稿しよう!