第二章 封鎖農園

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 反対に言えば惰性的に今の状況が続いているのであって、それに波風を立てる要素は小石であっても厭われる。いや小石だからこそか。 「なあ、頼むからここを通してくれ。こ、子供が生れそうなんだ。」  あの臨月の女性を荷車に乗せて引く男が弱々しくも叫んでいる。疲れ果てて大声はでないのだろう。しかし、その声の切実さにはゾッするような迫力がある。  二つの建物の間の狭い通路は、細い丸太で補強された高さ三メートルほどの土壁に囲まれた差渡し数メートルの小さな出丸によって封鎖されている。  互い違いに迫り出た壁によって横向きにあいた門は、男の引く小さな荷車ならかろうじて通過できそうであったが、今は粗末だが丈夫そうな門扉が閉じられている。  その横の壁から上半身を出している二人の門番の表情は困惑と同情が相半ばしているが、それでも動こうとはしていない。  なお言いつのろうとする男へ背後から声がかけられた。 「もう破水しとる。はよせんと直に産まれるぞ。我の馬車に運べ。」 振り返ってヴィヴィアンを一瞥するなり激昂した男は大声で、 「小娘に何が出来るってんだ。」 と叫ぶが、彼女は表情をゆるがせもせず、 「産まれそうじゃから手伝おうと言っただけじゃ。儂も別段産婆の役などしたくない。お呼びじゃないならそれで良い。」     
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