第三章 志願者

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 農地や草刈り場などを含めると農園は数キロ四方の広がりを持つ。ここで園内とはその中核施設内へという意味だ。  石造りの建物の間の小径を通過するとすぐそこは広場、正確には荷卸し場だった。中央には運河の末端とそこから放射状に延びるドック様の船留め。そこには小さなボートが二雙ばかり、船底に水を溜らせて繋れているだけだった。  本来はそこへ細長い運荷船(ナローボート)が入船し、荷下ろされたまたこれから積み込む荷が周囲に高く積まれて、それを捌く人々が忙しげに働いていたのだろう。丁寧に掃除されているが、いやされているからこそその空間は寂しげに広がっている。  周囲に立ち並ぶ石造りの建物がこの広場を外界と区切っている。運河でさえ曳舟道共々にゲートハウスを潛っている。  建物は荷物の出し入れの為に扉も大きく幅広い。採光の為に窓は広く、デリックで直接二階へと荷物を搬出入する建物は、二階にも幅広い開口部がある。石造りの建物本体の周囲には木造のベランダ形式の回廊が廻り、時には隣接する建物へと繋る空中回廊となっている。  建物の反対面、外に面する側が細い狭間と同じような窓しかないのと対照的に解放的な造りだ。  サナダはそこで一度は兵の募集、演説を行った。  何週間も復古派により閉鎖されていて暇を持て余していた農園の人々は広場に押し掛け、そこまでの熱意を持たない者も建物の窓やその周囲の通路から、年季の入った演台に立つサナダを眺めていた。  その視線に悪意は無いが真剣さも殆ど無かった。  閉鎖されているとは言え、復古派は本気でこの農園をまだ攻めていない。食料などを融通すれば本格的な戦闘が無いまま復古派は去ってゆくだろうと農園に立て籠る人々は本格的な危機感を持っていない。  そんな彼等にとって兵の募集をするというサナダの演説会は暇潰し以上の興味を引かなかった。  彼の訴えに対する反応はそれ以上に非道かった。  彼らは理想の為に共に戦ってくれというのが理解できず、サナダが何か新手の詐欺師のように思えたのだろう。冷笑というより蔑みの視線、野次というより罵声がサナダに浴せられた。
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