第三章 志願者

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「大将、オラァあんたの子分になるぜ。」  髪についた土塊や木っ端を払いもせず、男、男の子だわははぁと独り言にしては大きな声を上げ、飛び跳ねて転んで四足で駆け戻ってきたジンベエの言葉だった。 「大したことはないなな。」というのが周囲の復古派の様子を見て回ったラーデンの感想だった。  復古派は彼等の戦いの定石どおり、丈夫な樫材でできたバトルワゴンで円陣を組み、農園へ至る三つの道を封鎖している。  しかし、本来ならば行う鉄鎖でバトルワゴンを連結することもせず、余裕があれば為るべき陣前の杭打ちもない。  まあ双方が積極的に戦闘を行いたい訳でもないからな。なまじ準備すると相手が本気になるかもしれずそれでと、深読みしたが違うなと頭を振った。  車陣からは木陰となる遠くの草原から、若い男女が手をつなぎ出てきたからだ。  やはり大したとはない。練度も戦意も。  避難民がたむろする出丸前に戻ってきたラーデンを出迎えたのは、黒い鎧姿の十人弱の人影だった。 素直にあの条件でよく集ったと思うと同時に、なんじゃこれとも思う。  鎧を着慣れていないのだろう。何かしらちぐはぐとしている。しかしまあ、新兵とはそうゆうものだ。  問題は鎧の中身だ。  子供達に中年のおっさん、おばさん、髪に少し白いのがまじったのまでいる。兵士としての適齢期の二十前後の男子がいない。まぁ、子供達の年長組ぐらいのが連隊にいない訳じゃないが。その下のはいたとしたら連隊のマスコット扱いだな。  横隊に"整列"した志願兵を一瞥したラーデンが表情を消して馬を繋ぐのを見てから、サナダは若いというより幼さの残る志願者の被る兜の緒を屈んで締めてやった。  背後に人の気配を感じ、振り返りながら立ち上ったサナダはラーデンに顔を近付け、 「やる気はある。」 とだけ言うとラーデンは気配だけで肩をすぼめてみせた。
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