第三章 志願者

6/9
前へ
/52ページ
次へ
 ジミーはラーデンが背負っている物を見て、何が始まるのかの見当をついたが、その横を歩く女の子が懐から何かを取り出して"隊長"に向けるや轟音がしたのには魂消た。  隣で尻餅をついたフレデリックを助けおこしながら、女の子が短筒に棒と突っこんでぐるりと捏ね回した後、小袋を噛み千切り中の黒い粉末を短筒の中に流し込み、さっきの棒で突き堅めているのを見ていた。流れるような一連の動作の最後、丸球をボトリと落し入れるのを見てやっと女の子が持っているのが燧石式短銃であることを理解し、はっとして"隊長"を見やった。  彼は眉を顰めていただけで、 「どうだ、このとおりだ。ピストル程度ならこの距離で打たれても、この鎧なら問題ない。」 と脇腹にできた引っ掻いたような傷をなぞって見せ、少々おどけた調子で誰か試してみるか、と女の子が手に持つ短銃へと顎をしゃくった。  誰も名乗りをあげないのを確認して、鎧櫃から古び、穴さえ空いた帝国軍の鎧を志願者の横隊の前に置き二歩ほど離れ頷くと、再び轟音がして古鎧に穴が一つ増えた。 「少くともお前らが着る鎧は帝国のよりは丈夫だ。」  そして鎧櫃に立て掛けてあったマスケットを手に取るとサナダは、少し待っていろと声を掛けた。  次に何が始まるのかを察したジミーが、ラーデンが鎧櫃から取り出した鎧を指差し、 「隊長、隊長の鎧やその鎧だけが特別製じゃないんですか。」 「じゃあ標的はお前が代われ。」 と答えた隊長に、ラーデンは手にした鎧胴をぽんと投げ戻してジミーの方へとずんずんと歩き出した。  無意識に後ずさったジミーの頭にラーデンが手をやって、 「馬鹿、何を勘違いしてるんだ。さっさとお前の鎧を寄越せ。」  言った後、ラーデンは背後を一瞬振り返るとひとにらみした。  サナダは肩を竦めて謝意を伝えると、マスケットの準備を再開した。  対重装騎兵用大型銃というマスケットはほぼ人間が一人で扱う限界の銃で、口径二十ミリの鉛球を打ち出す。サナダが今準備しているマスケットはその中でも大型の銃で、これなら近距離からならたとえ神聖騎兵であっても仕留めることができる。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加