第一章 野を行きて

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第一章 野を行きて

 幌馬車が走り、黒い鎧姿の騎士が先導する。  本来は小麦畑であった周囲の荒地(あれち)は、不統一に斑に雑草が覇を競っている。春先に花を咲かせ華やかといえなくはないがが、自然の荒野(こうや)の寂しくも毅然とした趣きはなく、機能していない水路や土塗れの脱穀台がただただ荒廃を感じさせている。  丘の上に領主の館が遠望できる。軍事拠点を兼ねるそれは高い塀に囲まれその内を見ることはできない。しかし、破壊され放置された大門がそこがすでに機能していないこを物語っている。  周囲に目を配りながら進む騎士の鎧は一風変わっていた。外見はロリカ・セグメンタ、板金をつなぎ合せた鎧に似ているが、分割された構造はもっと細かでより柔軟に動くことができそうだ。その上、その鎧は足先までを覆っている。  いや形状より目を引くのはその色だろう。禍々しいほどの漆黒。決っし防錆処理の黒染の黒さではない。  その鎧は乗馬にまで施されている。にも関わらず馬の軽やかな足取りから、かなり軽い素材なのだろう。革を樹脂で固めたものなのだろうか。     
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