1年前

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🎆  半年後。  僕はメッセンジャーバッグ1つを肩に引っ提げて、新幹線に飛び乗った。  大げさな荷物は子供の頃から好きではなかった。替えの下着1日分と、Tシャツが2枚。半パン。充電器。財布とスマホはジーンズのポケットだ。後はどうとでもなる。  自由席は空いていた。やはり帰省の時期をずらして正解だ、と思った。この前に帰った時は旅行先へ向かうラッシュと重なってしまい、立っているのさえ一苦労だったのだ。  座席にゆったりと沈み込む。目の前の背もたれに付いたポケットに、パンフレットが入っていた。表紙一杯に花火の写真が使われており、僕は思わず手に取った。  通過する町でも、花火大会が開催されるらしい。墨汁を塗りたくったみたいな黒い夜空に咲いた、光で出来た大輪の花。じっと眺めているうちに動悸が速くなり、眩暈を引き起こし、僕は前方に丸めるようにして身をかがめた。パンフレットを握りつぶす。  またこの季節がきた。  大それたことをしてしまったという後悔の波が、僕に襲いかかる。黒々とした水に頭から覆われて、息もできない。鼓動が痛いくらいに激しく打つ。車内は寒いくらいにエアコンが効いているのに、全身に汗が噴き出た。  落ち着け。落ち着くんだ。  電話越しの父の声は普通だった。あれは何も知らない声だ。きっと母も知らない。兄も。千咲さんは誰にも話していないのだ。話せるわけがない。そうだ。僕たちの罪は誰も知らない。恐れることはない。  そっと顔を上げる。汗が滲んだ僕の手の中で、花火が歪に形を変えていた。僕の脳裏に、懐かしい祭の風景が流れて消えた。
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