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いやいやいや、違う! 俺は母さんの息子! 人間の!
俺の魂がクロの体の中に入ったのだ。クロは俺が踏切にいた頃に、外出してしまい、母さんが病院から戻っても、クロはまだ帰っていなかったらしい。俺が体を借りちゃっていたから。クロはしっかり生きているのだ。
そうなると、俺はそろそろ成仏してやらないと、クロも困るだろう。俺は俺なりにありがとうと言うつもりで、
「ニャニニャニョーー」
と鳴いた。
そしてクロの体から出た。
次の瞬間、俺はベッドの上だった。
俺は生きていたらしい。鈍い痛みが五体の存在を教えてくれていた。クロが俺の魂をつなぎとめていてくれたのかもしれない。退院したら、クロ様に高級おやつでお礼をすると決めた。
バタバタと看護師や医師が出入りし、間もなく母さんがやってきた。
俺がなんとか声を出せて、母さんが泣いて喜んで、医者からも危険を脱したとか言われて、ひととおり済んだころに、警察官がやってきて、母さんと話していた。
俺を突き飛ばした犯人を突き止めたのだろうか。俺も生きていたし、誰だか知らないが、とにかくきちんと罪を償ってくれればいいや、と心穏やかだった。
死ななかったけど、死にかけると心が広くなるみたいだ。
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