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第2話 父の盃に浮かぶもの
「父上は、若、頼朝公の元へ参陣した日のことを、覚えておいでですか?」
盃についだ酒の水面を見つめながら父へと問いかける。
私の問いかけに、父上は、「ああ」と小さく答える。
「忘れるものか。時は治承4(1180)年の、夏のことだったな」
そうはっきりと答えた父上に、一口だけ酒に口をつけたあと、「ええ」と短く答え、言葉を続ける。
「………あの時から、父上は、若のお心まで支え続けていたのですね」
盃に沈んでいた視線と思考を、父上へ向ければ、父上は目元を緩めながら、庭先を見やる。
そして、そこに居る彼の背を見て、父上は、盃の酒を、口へ運ぶ。
「はて、どうだろうか。私は、若が進む道の手助けをしているだけに過ぎないと思うが」
父、千葉常胤が、若と呼ぶ源頼朝公は、源義朝の三男として生まれる。頼朝公の父・義朝が平治の乱で敗れ、幼き頼朝公もまた、例外なく平氏にその身を捕らえられる。義朝の三男がゆえ、死刑が当然と見られていたが、敵方である平清盛の継母・池禅尼の嘆願などにより死一等を減ぜられ、若は、伊豆に流刑となった。
この時の若はまだ元服も迎えぬ13の歳だった。
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