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「……はい、父上」
彼はガレドニアのために、同盟国の要求を優先するだろう。
けれど、その前に娘のことも尊重してくれているのだと、ディアナには分かった。
「わたしには分かります」
自分達の祖先は、急襲に備え、この剣をベッドの下へ入れて眠っていたと言う。
わたしも真似をしてベッドの下で保管しよう、とディアナは思った。
父はこちらの様子を見ていたが、やがて小さく息をついた。
「そうか……お前には伝わったか」
やさしい瞳が、こちらを見下ろす。
「それならいいんだ」
彼はその夜、それ以上何も言わなかった。
あれから数か月後、ガレドニアの城で婚約者たちの顔合わせが行われることとなった。
オルグラントの国王を招き、それぞれの子どもに将来の仲を誓わせる。
それにかこつけて、同盟を結ぶというのが真の目的だった。
顔合わせの準備を終えた今、ディアナは自分の大役を理解している。
相手がどんな人間であれ、嫌だと言う事は許されない。
自分よりも年上だそうだけど、きっと素敵な人に違いない。そう自分に言い聞かせて、広間へと足を向けた。
辿り着いた広間は、鮮やかに飾り付けられていた。
なにしろ不和の相手であった敵国と、同盟を結ぶのだ。
失礼のないように、素晴らしいもてなしをしなければならない。
召使いたちは趣向を凝らし、壁や柱や天井に、美しい装飾品を散りばめたのだった。
柱に彫られたヴァルムートたちは、みな花の首飾りを下げ、壁には澄み渡る湖の絵が掛けられた。
余すところなく磨かれたシャンデリアは、まだ昼間だというのに、太陽に負けないぐらい輝いている。
広間の中央には父王が立っていて、誰かと話している。
相手は見たことのない顔だ。白髪交じりの黒髪の男は、数人の護衛を連れている。
傍にはやはり、見知らぬ少年の姿があった。
ディアナよりも一回り年上の、青年になる前の男の子。
その姿に一瞬、どきりとする。
――――あの人だ。あの人がきっと、ラルフ王子だ。
どきどきと鳴る胸を抑えて、彼らの元へ向かう。
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