第二章 禁忌の魔法は誰のもの

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風がそよぎ、緑の葉を揺らしている。 辺りは静かだ。 ルイスは黙って立ち尽くしていた。 ――――その使い方が、本当に正しいか考えろ。 彼の言葉が、心に刺さって離れない。 禁忌の魔法(オズワルグ)を完成させたとき覚えた違和感。 それが再び胸をついた。 ガーランドが「はぐれ者」になる。この山に来るまで、それを食い止めようと思っていた。 果たしてそれは、正しいことと言えるだろうか。 眩しく笑ったサリィの顔と、頬に鱗を浮かばせた騎士の顔を思い出す。 ガーランドの左手は変色し、黒いカギ爪が生えていた。 ――――とにかく、戻らなきゃ。 考えていても答えは出ない。 ルイスは歩き出した。 誰だって、呪いを受けるのは辛いものだ。 鱗の生えた騎士の顔を思い出すと、やっぱり答えは濁っていった。 ガーランドだって、解呪を望んでいるんじゃないだろうか。 ぐちゃぐちゃになる頭を無視し、ひたすら歩みを続けた。 山道には誰もいない。 夕焼けに濡れた木々の中、ルイスは一人、村へと向かった。 * ふもとの村に辿り着いたのは、月が高く昇った頃だった。 暗い山道を無事に戻って来られたことで、ルイスはほっとしていた。 そして何より、ガーランドを救えることに、わずかな期待を抱いていた。 色々悩んだけれど、結局根底にあるのは、助けたいという気持ちだ。 この禁忌の魔法(オズワルグ)はとても苦労して手に入れたのだ。 あの青年が再び現れる前に、どうにかしてガーランドに渡そうと思った。 その先は、騎士と二人で考えればいいことだ。 ルイスは宿に辿り着くと、主人への挨拶もそこそこに、ガーランドの待つ部屋へと向かった。 階段を駆け上がるうち、彼を救えるという喜びと安堵が湧き起こってくる。 怒られたっていい。 ただ、もう一度あの優しい顔を見たかった。 「ガーランド、帰ったよ!」 ばん! とルイスは扉を開ける。 「遅くなってごめん、僕……」 その顔から、だんだんと笑みが消えていく。 「ガーランド……?」 部屋はしんと静まり返っている。 壁際のベッドには、誰も横たわっていなかった。
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