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「おお、来たかディアナ。元気そうで何よりだ」
歩き出したディアナは、唐突に背中をばんばんと叩かれた。
驚いて顔を上げれば、父ではなく、ひげをもじゃもじゃに生やした叔父が立っていた。
「叔父上。いらしていたのですね」
「もちろんだとも。今日は二つの国が結ばれる、記念すべき日だ」
がははと豪快に彼は笑う。
その後ろから、ひょっこり誰かが顔を出した。肩まである金髪に、釣り目がちな少年だ。
「よおディアナ。お前婚約したんだって?」
叔父の息子――つまりいとこであるハリスだ。ディアナはあまり、この少年のことが好きではない。いつも馬鹿にしたような言い方をしてくるからだ。
ディアナは負けじと、彼に視線を投げる。
「そうよ。もう結婚する相手が決まっているの、いいでしょ?」
「そいつはなんともかわいそ……おっと」
「ハリス、今日ぐらい口を慎め」
叔父がハリスの肩を掴み、ディアナを見た。
「お前もそう緊張するな」
「し、していません」
「そうかそうか。それなら良かった」
彼はこちらの様子を気にした風もなく、また楽しそうに笑う。
本当のところ、ディアナはひどく緊張していたけれど、なんとか胸を張って歩いた。
ハリスがにやにやとこちらを眺めて来るが、無視を決め込む。
父の元へ辿り着くと、彼は義務的な、けれどどこか明るい笑みを浮かべた。
「ディアナか。それにお前たちも。ちょうどいい、紹介しよう。――こちらがオルグラントの王、グスタフ殿だ」
彼が示した先には、あの白髪交じりの男が立っていた。その目は底が深く、感情が見えない。
ディアナはわずかに息を呑んだが、きちんと背筋を正すと、ドレスの裾を持ち上げて正式な礼をした。
「初めまして。ディアナと申します。お会いできて光栄です」
「こちらこそ。ガレドニアの姫君」
そう答える声は、荘厳な響きを持っていた。低く事務的な、やはり感情のない声。
この男を敵に回さなくて正解だった。
ディアナは本能的に察した。父が締結にこぎつけた同盟は、正しかったのだ。
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