第一章 王女は死んだ

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「こちらが私の息子だ。本当は次男も連れて来たかったのだが……奴は落ち着きがないのでな」 グスタフ王は一つ首をふると、傍に立っていた少年を一瞥した。 「ラルフ、挨拶を」 言われて、少年が一歩前に出た。 「――初めまして、ディアナ姫」 それは黒髪に、鋭い紫の瞳をした男の子だった。 年は十七だと聞いている。自分にはずっと年上に見えるけれど、まだ子どもの面影を残していた。 ディアナはどきどきしながらも、なんとか先ほどと同じように、丁寧に挨拶をした。 「初めまして、ラルフ王子。どうぞよろしくお願いします」 「……小さいな」 かすかに彼が呟いた言葉に、ディアナはわずかに顔をあげた。 グスタフ王が面倒くさそうな視線をラルフに向ける。 ラルフはそれを受けると、ディアナに微笑みかけた。張り付けたような笑みだった。 「ディアナ姫、私はこの国のことをよく知らないのです。良ければ外を案内してもらえませんか?」 ディアナは一瞬、躊躇(ちゅうちょ)したが、なんとか気を取り直して笑みを浮かべた。 彼は二人きりで話せるよう、こうしてわざわざ提案してくれたのだ。 「分かりました。――わたしで良ければご一緒に、」 「姫君」 明るく答えようとするディアナに、一人の男が耳打ちしてきた。 父の護衛、ガーランドだ。黒い髪に黒いひげを生やした、壮年の騎士である。 「城からあまり離れ過ぎないよう、お願いしますよ。騎士の中に、妙な動きをする者を見たと言う情報がありますから」 ディアナは目を瞬かせた。 「今日に限ってそれはないわ。きっと何かの間違いよ」 「だったら良いのですが」 苦笑を浮かべる彼に、ディアナは微笑み返す。 彼は父に忠誠を誓っている。 きっと目を光らせるあまり、何か要らぬ誤解をしたのだろう。 今日は城の内外に見張りの騎士がたくさんいるのだ。何も心配する必要はない。 「大丈夫よガーランド。少し歩くだけだもの」 ディアナが声を潜めて返せば、ガーランドは何か言いたげな顔をしたものの、結局父の元へと戻って行った。 さんさんと太陽の輝く、穏やかな日だった。 ガレドニアの城に中庭というものはない。周りが渓谷に囲まれているので、そこら一体が庭というような感じだ。 運が良ければ、ごくたまにヴァルムートと、そこに乗る「はぐれ者」を見ることができる。
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