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空は青く、いい天気だ。
明るい草を踏み分けながら、二人は城の傍を歩いていた。
「本当に美しい国ですね、ここは」
ラルフが辺りを眺めながら言う。
渓谷であるこの国は、辺りを挟むように巨大な崖が立ちはだかっている。その上から幾つもの滝が零れ落ち、さらにいくつもの湖となって繋がっているのだ。
一番大きな滝は、城の裏側に流れているものだ。水しぶきの音がここまで聞こえてくる。
名も分からない白い鳥が、広がる視界のはるか先で、小さな蝶のように飛んでいた。
ラルフが小さく呟く。
「先ほど、ヴァルムートの姿を見ました」
ディアナは思わず彼を見る。
「あなたも!? 実はわたしもさっき……」
「噂には聞いていたが、ヴァルムートを見たのは初めてです。あれを見て、我が父が言っていたことが分かりました」
ラルフはひたすら渓谷を眺めている。
その鋭い瞳に、眼光が宿った気がした。
ディアナはわずかに眉根を寄せる。
「御父上……グスタフ王は、何を仰っていたんですか?」
「我が父は、あなたの父ジルギスとの交渉に失敗したのです」
「失敗?」
意味が分からなかった。
自分達はこうして婚約を結んでいるではないか。
交渉は成立し、婚約の上に同盟が締結されたのだ。
ラルフは静かにこちらを見た。
「ディアナ姫、あなたは幼すぎる。私には年の離れた妹がいるが……あなたはあいつと同じぐらいの年だ。正直私は、こんな結婚納得いかない」
ディアナは驚いて口を開いた。
「だ、だけどこれは、」
「だがまあ、大きくなれば話は別だ。それまでの辛抱だろう」
ラルフがわずかに目を細める。ディアナは瞳を揺らした。
つまりは彼にとって、自分は恋愛の対象外なのだろう。当たり前だ。
ならば大きくなってから、魅力的な女性になればいい。
そう思うのに、心を何かうすら寒い物が駆け抜けていくのだった。
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