第一章 王女は死んだ

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ラルフはこちらを見たまま、探るような口調で尋ねてくる。 「あなたに一つお聞きしたい。私の妻になる気はありますか?」 急に何を言い出すのだろう。ディアナは慌てて答えた。 「は、はい。もちろん」 彼の目を見て、はっきりと言葉を続ける。 「わたしはガレドニアの王女ですから」 「ふうん、ガレドニアねえ……」 ラルフはうっすらと目を細め、ゆっくりと口を開いた。 「もしも、もしもの話だ。――片方しか選べなかったとしたら、どうしますか?」 「片方……?」 彼が何を言いたいのか、はっきり分からない。 食い入るように彼を見つめ、唇を開いたその時。 甲高い悲鳴が、城の方から聞こえた。 二人ははっとして顔をあげた。 悲鳴は侍女のもののようだ。 「誰か、だれか来て――人が……!!」 ディアナはぱっと駆け出した。その後ろを、慌ててラルフが追って来る。 二人で急いで城に戻れば、そこにはもう人が集まっていた。 吹き抜けになっている回廊の一つ、そこで侍女が震えていた。 彼女の視線の先には、礼服の騎士が倒れて死んでいた。 服の色からして、この国の者ではない。グスタフ王の護衛の一人らしかった。 犯人はうまいこと、相手の急所を狙ったらしい。死体の胸からはどくどくと血が流れ、床を真っ赤に染めていた。 陽射しの降り注ぐ回廊で、それはあまりにも場違いな光景だった。 「一人でいるところを狙われたか……」 そう呟いたのは、騒ぎを聞いて駆け付けたグスタフ王だ。どうやら事件が起きた時、護衛は厠から帰るところだったらしい。 「困ったものだ。一体誰がこんなことを……」 彼が視線を上げる。 既に集まっていたディアナの父や叔父は、緊張した面持ちになった。 ガレドニアの城で、オルグラントの騎士が殺されたのだ。 これでは同盟が揺らぐどころか、立ち消えになってもおかしくない。 最悪の場合、もっと酷い事態へ発展する可能性もある。 「うわぁ、こいつは酷い」 野次馬の中で、誰かがそう漏らした。 ディアナは顔をあげる。 人々の輪の中に、金髪のいとこの姿が見えた。 「腹をざっくりと……容赦ねぇ」 ハリスは眉をしかめながらも、どこか面白そうに死体を見ている。その頭に叔父のげんこつが落ちた
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