第一章 王女は死んだ

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「さあ、できましたよ王女様。ラルフ王子もきっと、気に入って下さるでしょう」 「ほんとう?」 「ええ、特注の首飾りに腕輪、それに……」 侍女のソフィアは楽しそうに語り始める。こうなると彼女は止まらないのだ。 最初の頃はディアナも照れていたけれど、今は深く気に留めず、聞き流すようになってしまった。 「ありがとう、行きましょうか」 微笑みを向けると、静かに扉へと向かう。ソフィアは我に返り、慌てて後をついてきた。 少女は緊張した風もなく、堂々と歩いていたが、その胸の中は不安と期待ではちきれそうだった。 ディアナは、この国ガレドニアの、たった一人の跡継ぎだ。 父であるジルギスはこの地を治める王であり、民の信望も厚い君主だった。 この大陸には三大国と呼ばれる三つの国があり、ガレドニアは東に位置している。 さらに裏世界があるという伝説があるが、それはあくまでおとぎ話の類だった。 この国は古くから、北の地にあるオルグラントと不和の関係を続けている。 ガレドニアの肥沃な土地は、長年他国に狙われ続けてきたのだ。古くから幾度か戦争が起こり、そのたびに代々の王が守り続けて来た。 それを今代の王ジルギスは、同盟を結ぶことで終わらせようと考えたのだ。 理由はたくさんあった。 きっかけは、オルグラントの王が魔法の研究に(たずさ)わっているという噂だった。 魔法は普通の人間が手にすることはできない、危険な力だ。その力を得て、存在するかも分からない裏世界を覗き、手中に収めようというのである。 加えて()の地の王は、ガレドニアを狙っているという噂もあった。 ガレドニアはそれなりに兵力があるが、もし未知の魔法で襲われては、太刀打ちできるか分からない。 例え互角に戦えたとしても、向こうもそれなりの兵力があるのだ。互いに莫大な被害が生じることは避けられない。 こういった訳で、ジルギスは先手を打つことに決めたのだ。 何度も交渉をし、緊張感に満ちたやり取りを続け、向こうの王グスタフを説得にかかった。 その結果、二つの国は互いの子どもを婚約させることで、同盟を結ぶことを決定したのだ。 その中にはさらに細かい政治的な交渉があったようだが、ディアナは詳細を知らされていない。
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