162人が本棚に入れています
本棚に追加
「さあ、できましたよ王女様。ラルフ王子もきっと、気に入って下さるでしょう」
「ほんとう?」
「ええ、特注の首飾りに腕輪、それに……」
侍女のソフィアは楽しそうに語り始める。こうなると彼女は止まらないのだ。
最初の頃はディアナも照れていたけれど、今は深く気に留めず、聞き流すようになってしまった。
「ありがとう、行きましょうか」
微笑みを向けると、静かに扉へと向かう。ソフィアは我に返り、慌てて後をついてきた。
少女は緊張した風もなく、堂々と歩いていたが、その胸の中は不安と期待ではちきれそうだった。
ディアナは、この国ガレドニアの、たった一人の跡継ぎだ。
父であるジルギスはこの地を治める王であり、民の信望も厚い君主だった。
この大陸には三大国と呼ばれる三つの国があり、ガレドニアは東に位置している。
さらに裏世界があるという伝説があるが、それはあくまでおとぎ話の類だった。
この国は古くから、北の地にあるオルグラントと不和の関係を続けている。
ガレドニアの肥沃な土地は、長年他国に狙われ続けてきたのだ。古くから幾度か戦争が起こり、そのたびに代々の王が守り続けて来た。
それを今代の王ジルギスは、同盟を結ぶことで終わらせようと考えたのだ。
理由はたくさんあった。
きっかけは、オルグラントの王が魔法の研究に携わっているという噂だった。
魔法は普通の人間が手にすることはできない、危険な力だ。その力を得て、存在するかも分からない裏世界を覗き、手中に収めようというのである。
加えて彼の地の王は、ガレドニアを狙っているという噂もあった。
ガレドニアはそれなりに兵力があるが、もし未知の魔法で襲われては、太刀打ちできるか分からない。
例え互角に戦えたとしても、向こうもそれなりの兵力があるのだ。互いに莫大な被害が生じることは避けられない。
こういった訳で、ジルギスは先手を打つことに決めたのだ。
何度も交渉をし、緊張感に満ちたやり取りを続け、向こうの王グスタフを説得にかかった。
その結果、二つの国は互いの子どもを婚約させることで、同盟を結ぶことを決定したのだ。
その中にはさらに細かい政治的な交渉があったようだが、ディアナは詳細を知らされていない。
最初のコメントを投稿しよう!