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第四章 二人の王女
勝手にどこかへ消えようとするベルナールを、ルイスは無理矢理引き留めた。
彼はまだふらふらしていて、とても完全な状態ではなかったのだ。
セグウェルに直行したい気持ちを抑え、一度森を出て、近くの村を探すことにした。
多少寄り道をすることになるが、禁忌の魔法を使ってしまい、何かが吹っ切れてしまったのも確かである。
この青年の面倒を見ながら、一度頭を冷やして今後の予定を立てるのもいいかもしれない、そんな風に思えたのだ。
ベルナールに無理矢理案内させれば、一日とかからず宿屋に辿り着くことができた。あの森の道は、人里に続くものから、獣道まで、彼は一通り把握しているらしい。
「ベルナール、お前って思った以上に森に詳しいんだな」
「……別に」
青年はあれから、ずっと素っ気ない態度だ。ふらついて危なっかしいので、肩を貸そうとすれば、「必要ない」と冷たく返された。
「ねえ、宿に泊まったことはある? この辺の宿はセグウェルの近くだし、料理もきっとおいしいよ」
「そいつは良かったな」
さっきからこの調子である。ルイスは密かに、森で言われた彼の言葉が引っかかっていた。
――――あんたなんか、大嫌いだ。
あの時ベルナールは、涙をこぼしていた。強い瞳で睨みつけられ、うまく言葉を返せなかった。
この男はもしかしたら、他人が想像できないような、酷い経験をしたのかもしれない。生きるのに疲れて、死を受け入れようとしていたのかもしれない。
つまりは、助けたのは迷惑だったのかもしれないのだ。
けれど、それを認めることは到底できなかった。
――――助けない方が、良かった?
そんな問いが、心の中でぐるぐると繰り返される。
それ以上に、大嫌いだと言われたことが、深く胸に刺さって消えなかった。
――――多分、ショックだったんだ。
そっと彼の横顔を盗み見る。
会うたびに口喧嘩ばかりしているけど、今ほど冷たい態度はなかった。
正直なところ、大嫌いと言われて、結構傷ついたのだ。それぐらいには、自分はこの男のことが好きだったのだと、今更のように気づいた。
この険悪な空気をどうにかしたくて、つい話しかけてしまう。
「何か食べたい物とかある? 宿の主人に頼めば、」
「別に」
「ちゃんと食べないと栄養つかないぞ」
「あんたには関係ないだろ」
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