あらすじ

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あらすじ

ある日突然、世界から海が消えた。 天変地異の予兆だとか、天災の予兆だとか、そういうものは全くなく、 ただ静かに、息をするのと同じような静けさと穏やかさで、消えた。 人々は大騒ぎした。「星の終わりだ」と誰もが口々に言った。 あまりにも静かで穏やかな消失が人間の不安を煽った。 けれど、雨が降った。 海が消えたその日から、海が無いのに、空は晴れ渡っているのに、雨が降った。 奇跡の雨で、恵みの雨で、命の雨だった。けれど、だからといって海が帰ってきたわけではない。 昼は灼熱、夜は酷寒。急に様変わりした星の過酷な環境に耐えきれなかった多くの生き物や植物が死に絶えた。 人も例外ではなく、病のあった者、幼い者、年老いた者を始めに、次々に倒れていった。 止まない雨だけが、生き残った者達の唯一の希望で、命綱だった。 そして、孤独になった人間はカウントダウンを始めた。この雨はいつか止む。誰もがそう本能で理解した。 雨が上がる日、その日が本当の終わりの日だと覚悟した。 生き残ったある学者が、死にもの狂いで奇跡の雨の研究をした。そして、終末までの時間を導き出した。 雨が上がるのは、1年後。雨が上がった瞬間、生き残った者達もすべて死に絶えると告げた。 人々は次第に祈ることをやめ、戦いをやめ、あきらめと絶望を背負い、自ら生きることをやめるように諭す者まで現れた。 海が消えた日。 私は泣いた。 けして短くはなかったこれまでの人生で、生まれた時より泣いたのは初めてかもしれなかった。 奇跡の雨が私の絶望だった。雨に希望を見出す人々が憎かった。 生き永らえることにしがみつこうとするすべてのものが許せなかった。 「生きて」 けれど、 「私の代わりに。私が成せなかったことを、私が、逃げ出してしまったことを」 「ごめんなさい・・・」 私の愛する妻は、悲しみに満ちた表情でそれを願った。 私が生きること。私が彼女の代わりになること。雨を、受け入れてほしいと。 「愛してる。大好きよ、ジョージ」 そして、私は旅に出た。
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