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俺はヘリウムガスに取り付けられているマスクを口に当て、もう一方の手でガスボンベの栓を握った。
思えば苦く、苦しい人生だった。
栓を開こうとしたが、ふと不安がよぎる。
“もしかして、こんな苦しみに満ちた俺って、美味しくないんじゃないの?”
「不味かったらごめん」
そう言いたかったが、もう言葉が出ない。
俺の気持ちを察したのか、あかりは優しく微笑んで言った。
「大丈夫です健一さん、いっぱい苦しんだ人は、深い味がするんです」
その笑顔は、この暗い森を照らす程の明るい笑みだった。薄れゆく意思の中で、それは小さな灯火のように、俺の心をいつまでも照らし続けていた。
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