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「こんにちは!」
やたらと元気な声がして、俺はゆっくりと顔を上げた。
樹海をさ迷ってまる一日、空腹と喉の渇きはピークに達し、俺は地面から張り出した木の根っこに腰かけたまま、動けなくなっていた。
声のした方を見ると、少し先の木々の間に人影が見えた。
ぼんやりとしていた視界が、やがてはっきりしてくると、そこに立っているのが少女だとわかった。
少女は純白のワンピースを着ている。
昼間でも薄暗い森の中にあって、その白さはまるで、辺りを照らす灯火のようだった。
“こんな深い森の中で、どうしたら白いワンピースを汚さずにいられるんだ?”
年の頃は十五、六といったところ、白い肌、黒く艶のある長い髪にも、枯れ葉やクモの巣ひとつついていない。
さらに、彼女は裸足だった。
いかにも華奢なその足で、地面を覆う苔を踏みしめながら、こっちにやって来るではないか。
そして何かを引っ張っている。
それは…。
いや、まさか…。
俺は目を疑った。
しかし、間違いない。
それは屋台だった!
リアカーに小さな店をくっつけた典型的な屋台。
裸足にワンピースの黒髪少女が、樹海の中で屋台を引いてやって来たのだ!
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