食べたら死にたくなる実

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食べたら死にたくなる実

 二日前に別れたばかりの女から会いたいと連絡がきて、その男はため息を隠せなかった。もう終わったことにしたのを、何だってこうも簡単に掘り返そうとするのだろう? 男はそう思って断りの連絡を入れようと思ったが、よくよくメールを見れば女は「勘違いしないで、実は私、とんでもない食材を手に入れてしまったの。一人で食べるのがもったいなくって、ぜひ美食家に譲りたいと思っただけなのよ。私の知っている美食家はあなただけだから」と文を添えていた。  確かに男は、美食家として誇りを持っていた。「とんでもない食材」と言われれば、血が騒ぐのは仕方がない。ずるい女だ、と思いながら、男は深呼吸した。  翌晩、かくして二人は会うことになったのである。女はうっすらと笑みを浮かべて男を自宅に招き入れた。 「あんた優しい男だったから、私も最後に少しくらい優しくしてやろうかと思ったのよ。ごらんなさい。一生に一度、手に入るかどうか分からない幻の食材よ」  女がそう言って男に見せたのは、小さく手紅い実が葡萄のようにたくさんついた、太い枝だった。 「クランベリーや、クコの実の類に見えなくもないが。こりゃ何の木だね」     
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