第1章

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「やっと楽になるんだ・・・。」 さくらは締め付けられてたものが開放される期待に包まれた。 自分の亡骸が見える。病院だけど、亡骸の周りには誰もいない。ふつう、いるでしょ?でも、だれもいないんだよ?親はまだ健全だけど絶縁されちゃったし、友だちは理由があって来れないし、いや、来てもらってもうれしくもないか。「嫁」は愛想をつかして出ていっちゃったし。 そう、さくらには「嫁」がいた。「嫁」は出ていったんじゃない。正しくはさくらが出て行かされたのだ。さくらは男として生まれた。が、女として死んだ。 苦しい一生だった。 幼少期はおとなしいせいでオカマと罵られ、青年期~成人までは頑張って"男性モデル"を演じて結婚まで至った。でも頑張ったもののムリが祟った。ある時、さくらの中で弾ける音がした。プチン!という音とともに堰が切って落とされ、あとは親、親戚、旧友、嫁、みんな離れていった。唯一残ったのは同じ世界の友だちだけ。この世界の友だちで、親友を作るのは難しい。若干名できたから優秀だとも言えよう。 この世はなんだかんだといっても、まだまだ男と女しかいない、そういうシステムの中で運営されてたな。新しいシステムを構築したかったけど、ぜんぜんムリだったわ。 新しいシステムとは、 男性100% ←←← 中性 →→→ 女性100% このすべての間・・・数値は浮動小数だけど、を許容できる世の中。認めなくていい。許容してくれれば。たったそれだけのことだけど、さくらにはとてつもなく高い壁だった。壁を登ろうとして、転落して死んだようなもの。 さくらは無念ではないんだよ。 その昔、ふぐの肝に毒があることがわからなかったころ、何人もの人がふぐの肝を食べて亡くなったはず。長い長い年月を経て、人間はふぐの肝には毒がある、というノウハウを手に入れたはず。 さくらもそんな多数の一人。だから信じてる。さくらが生きにくかった世界を次の人たちの誰かが花開かせてくれるって。さくらは種を撒いた。さくらの役割は終わったの。 種を撒くだけで社会批判を浴びた。心労がさくらを長期間襲ってきた。 さぁ、さくらの役割がようやく終わった。さくらは次のステージへ行くよ! 自分の亡骸を下に見つつ、さくらは宇宙の命の集合体に向かって、命を返却しに晴れやかに向かった。
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